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細胞を守るインターフェロン 2/5


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免疫とインターフェロン
──"敵と味方が同居"する


──インターフェロンと抗体とでは、ウイルス抑制作用はどう異なるのでしょうか。

小島 特定のウイルスで免疫して産生された抗体はその特定のウイルスのみに直接結合(特異的)してウイルスの増殖を抑えます。量が多い方が勝つので、試験管内で10億個もの大量のウイルスと抗体が共存することはあり得ません。
 一方、インターフェロンはウイルスを選ばず非特異的で、ウイルスには直接作用せず、試験管内では互いに共存します。
 この「敵(ウイルス)・味方(インターフェロン)共存」の現象は免疫には見られないものです。私が紫外線不活化種痘ワクチンの開発研究中に、10億個ものウイルスが存在する試験管内で見つけたウイルス抑制因子はインターフェロンだったわけです。
 1個の細胞に2種類のウイルスが感染した時、どちらか一方あるいは共にその増殖が抑制されるという、免疫では説明されないこの現象を、干渉現象と呼びました(インターフェレンス)。
  当初それはウイルス同士が互いに細胞の栄養源を奪い合うことによるものと考えられました。後になって、それはインターフェロンが引き起こすウイルス同士の 干渉現象であることがわかり、この干渉(インターフェレンス)を引き起こす原因物質を、インターフェロンと名付けたわけです。
 一方、免疫は元来"二度無し現象"として税金や病気(疫)を免れることを意味します。今は専ら医学用語として自己と自己でないもの(非自己)の識別に基づいて、生体が非自己を排除する生体防御システムのことを免疫といっています。
 哺乳類の免疫には、
・マクロファージ(NK細胞も含む)を中心として非特異的に幅広く、しかも早期に外敵に対抗する「自然免疫(広義の免疫)」と、
・ リンパ球を中心にした、ハシカのワクチンはハシカにしか効かないように、抗原(感染源)に対して特異的な「獲得免疫(狭義の免疫)」の二つが備わって、互 いに協働して生体を外敵などから守っています。さらに、獲得免疫は・T細胞が直接抗原をやっつける「細胞性免疫」と、・抗原に出合った時に抗体が作られ、 二度目に同じ抗原に遭遇した時に抗体が素早く抗原を処理する(抗原抗体反応)「液性免疫」があり(表2)、ワクチンなどは防御抗体が体液の血清成分にでき るものです。
 つまり、ウイルスと抗体は直接対決する間柄なのに対して、インターフェロンはウイルスに直接的には何の作用もすることなく、細胞に 作用して細胞を丈夫にしてウイルスの増殖を抑えるのです(表2)。ですから、ウイルスとインターフェロンは共存できるのです。言いかえると、免疫はウイル スやがんなどの病原体を担った細胞を直接攻撃するのに対して、インターフェロンは免疫とは異なる作用機構として、細胞側を抵抗力の強い姿にすることで病気 から身を守っているのです。人間のような複雑な機構を持った高等動物は、両者が互いに協力して健康を維持しているわけです。



インターフェロンの多様な生体調節機能と功罪

──インターフェロンはがんの抑制効果などもよく知られていますね。

小島 インターフェロンは発見当初、正常細胞に悪影響をおよぼさず、あらゆるウイルス感染を抑えるという素晴らしい特性を示しました。
  その後、ウイルス抑制作用以外にも、・がん細胞を直接殺すリンパ球、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞の活性を高めたり、・がん細胞の増殖を 直接抑制したり、・がん細胞を正常細胞に分化させる因子の働きを助けたり、・また免疫力の増減に関与する──など多くのいろいろな働きがわかってきました (図3・表3)。
 このような性質から、インターフェロンは広い意味で「サイトカイン(種々の細胞が産生する、細胞間のいろいろな生体調節に関与する液性因子)」に位置付けられています。
 産生する細胞によって種類も性質も異なり、大きくはα、β、γの3つに分けられ、治療にはαとβが使われています。



──インターフェロンは体の中でどのようにして作られるのですか。

小 島 インターフェロンは常時作られているわけではなく、ウイルス感染があったり、刺激物質(インターフェロン・インデューサー)の作用を受けた時に、細胞 内のインターフェロン遺伝子が発現し、糖蛋白性のインターフェロンを合成し細胞外に分泌します。分泌されたインターフェロンは細胞表面の受容体に吸着して 細胞に作用し、作用を受けた細胞は抗ウイルス性や抗腫瘍性を得て、炎症型であろうとがん型であろうと広範囲にウイルスやがんの増殖を抑制します。
 このような優れた特性から、1980年初頭にはインターフェロンは「夢の特効薬」とまでいわれました。
  しかし、インターフェロンは抗生物質やワクチン抗体と違って、種依存性が強く、ヒトにはヒトの細胞から作られたインターフェロンを用いなければ効果があり ません(表2)。大量生産が可能になるまでには、今日のバイオテクノロジーや遺伝子技術を待たなければなりませんでした。
 また抗生物質やワクチンは2~3回の注射で済むのに対し、インターフェロンの製品化には百~数百倍も濃縮精製しなければならず、治療も毎日から1日おきに数ヶ月注射を続ける必要があり、治療費は年間百万円単位にもなります。
 副作用も風邪症状、無気力、脱毛から、ウツや自己免疫疾患などの重い副作用が現れることもあります(表4)。



注射によるインターフェロン(IFN)・インデューサーの失敗

小 島 そうしたことから、インターフェロンの研究は世界的に、安価で量産可能な、身体の中にインターフェロンを作らせる「インターフェロン・インデュー サー」に向けられました。インターフェロン・インデューサーとは、生体や生きた細胞との相互作用により、インターフェロンを作り出す刺激物質の総称です。
  世界では、簡単に出来、実験しやすい培養細胞やリンパ球を用いて注射方式で行いました。この方式では短期間で大量のインターフェロンが血中に現れます。し かも、注射方式では脾臓や肝臓や肺の大事な臓器でインターフェロンを大量に作ります。本来臓器は大事な仕事をしています。インターフェロンを作るようなア ルバイトは短期間ならばともかく、長期では発熱や毒性で実用に耐えられるものはありませんでした。インターフェロンは細胞に作用するもので、血中に大量に 出ることは無駄をしていることです。無駄は病の長期戦には禁物です。
 以後、研究はインターフェロンの生産と治療に向けられ、ウイルス性肝炎や一部のがんの治療薬として注目を浴び、大量生産の方向に向かいました。
 こうした世界の趨勢に反して、私はいかにして体の中に、自前の安全なインターフェロンを作るかという研究に専念しました。
 医薬品ではなく、食べ物からとるIFN・インデューサーなら、細胞を刺激して自前のインターフェロンを作るのを助けますから、自分の体でできたインターフェロンは副作用もなく、過剰になることもないと考えました。



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