アスパシオンの弟子31 楽園(後編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2015/01/12 19:54:18
『ウサギ。私のウサギ。おまえが見えぬ』 僕、ここです。 『どこにいる? 私の声が聞こえないのか?』 ここです……よ……
――「ぺぺ、大丈夫?」 フィリアの声で僕はハッと目が覚めました。 うとうとして眠っているうちに、朝日が昇...
『ウサギ。私のウサギ。おまえが見えぬ』 僕、ここです。 『どこにいる? 私の声が聞こえないのか?』 ここです……よ……
――「ぺぺ、大丈夫?」 フィリアの声で僕はハッと目が覚めました。 うとうとして眠っているうちに、朝日が昇...
「ペペ。調子はどう? 暑くない?」 柔らかなフィリアの声で僕は目覚めました。 うっすら眼を開ければ、そこはさんさんと眩しい陽射しが注ぎ込む温室。 柑橘系の橙色の実や葡萄らしきものがたわわに実った果樹がずらり。 目の前の透けているギヤマンの大きな壁の向こうには、とうとうと流れる小さな滝...
ぽろぽろこぼれる紅の涙。 ふるえる銀色の頭にいくつも口づけを落としてやると。 私の子がふりむいてすがってきた。 ぎゅうと黒い衣をつかんで。私の胸に顔をうずめて。「レナは、いなくならないで」 離れるものか。「パパみたいに死んだら、嫌だ」「大丈夫。死なないよ」 顎を掴んで上向かせてそっと唇に口づけてや...
目を開けたら一面、雪が積もっていた。 林檎の匂いのする花ではない。 白綿蟲でもない。 ほんとうに本物の雪だった。 首をかしげて手にすくいとってみたら。 ほんとうの雪だからすごく冷たくて、 手のひらの上でふわりと溶けていった。 考えてみれば雪はひさしぶりで、 たぶん数十年ぶりぐらいで、 最後の思い出...
(※アスパシオンの弟子と同じ世界のお話です)
序
その島は天に浮かんでいる。 高い高い空の上、 太陽の輝くそのすぐ下に。 星の瞬くそのすぐ下に。 その島は浮かんでいる。 雲の海を見下ろし、 大地を見下ろし、 ゆっくりぐるりと空を...