アスパシオンの弟子71 白き魔人(前編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2015/11/14 12:48:37
癒しの技を受けたノミオスの呼吸は、ゆったり深いものに安定していった。 ローズとレモンの悲壮な表情が和らいでいる。ようやくのこと、怒りに任せて何もかもを破壊しそうな狂おしい雰囲気ではなくなった。たぶん俺の貌も、そんな感じに変化したんだろう。妖精たちが俺に安堵の微笑を投げかけてきてくれている。 「...
癒しの技を受けたノミオスの呼吸は、ゆったり深いものに安定していった。 ローズとレモンの悲壮な表情が和らいでいる。ようやくのこと、怒りに任せて何もかもを破壊しそうな狂おしい雰囲気ではなくなった。たぶん俺の貌も、そんな感じに変化したんだろう。妖精たちが俺に安堵の微笑を投げかけてきてくれている。 「...
「あんたのおかげで恐ろしくペースダウンした!」 ついに泉の縁に這い上がり、ぜいぜいと息を切らせながら岸辺に寝転がった時。俺は泉の中で助けたそいつに文句を放った。 「す、すま……ぬ」 白い衣を着ているきれいなメニスだ。 鳶色で菫の瞳だから、フィリアのように人間との混血だろ...
「なめるな! 絶対ここから出てやる! ローズ、レモン、俺に引っ付け!」 俺は風船のように膨らませたおのが結界を、急いでさらに膨らませた。結界増幅装置のレベルはもう振り切れている。 俺が作った結界が俺と妖精たちとノミオスを包んだと思いきや。結界はいきなり破裂して、ぎゅうっと締まった。 「おじいちゃ...
辺りに充満する、甘い甘露の血の匂い。 目の前にぷるぷると、まっ白で細かい丸い粒が無数に浮かんで漂っている。 甘露。ノミオスの血の雫だ。 「ノミオスちゃん……」「ごめんね。ごめんね。もっと早く助けられてたら……」 赤毛の妖精たちがすすり泣...
怒りに任せて、白い衣の胸倉をつかんだ――はずだった。 だが俺の手は、空を切った。涙で奴の姿がぼやけていたが、まっ白な衣を掴み損ねるなんて。相手は実体ではないのだろうか。「なんでこんなひどいことをする?! わざと人間の餌食にするなんて!」「人間を滅ぼすためです。それしか理由はありません」 冷酷な声...