銀の狐 金の蛇 7話「靴紐」(後編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/03/24 16:53:27
「うう……?」
夢から覚めたソムニウスは、簡素な寝台の上で大きく息を吐いた。
案の定、昔の記憶を夢に視た。脳内記録の再生だから、啓示ではないかもしれない。
酔いが重く体に残っていて、頭の奥がずきずき痛む。
花模様が彫刻された木枠の窓からみえる空は、濃い紺色。...
「うう……?」
夢から覚めたソムニウスは、簡素な寝台の上で大きく息を吐いた。
案の定、昔の記憶を夢に視た。脳内記録の再生だから、啓示ではないかもしれない。
酔いが重く体に残っていて、頭の奥がずきずき痛む。
花模様が彫刻された木枠の窓からみえる空は、濃い紺色。...
(舞台は山間の小国ユイン。神殿に泊まることになった師弟。弟子が手袋を手に入れにいっている間、ソムニウスは夢を見ます)***************
背後に、寺院が視える。
湖の岸辺にせり出す岩壁。そこにうがたれている無数の窓穴。
そして目の前には、蒼い蒼い、鏡のような湖――。
ソムニウスはき...
俺が前にもまして疑問符をとばしていると。左翼の料理長がやってきて、ジャルデ陛下がお召しであると告げてきた。
たまごのせ瓶をずいぶん堪能されたから、あたらしいレシピを考えろ、とか、そんな思し召しをいただくのかと思ったら。
「おばちゃん代理。なんかな、ついさっき、こんな報せが届いたんだが」
...
陛下のありがたい思し召しで王宮一階厨房のパン係になって、二週間すぎた。
日がたつにつれ、俺の疑問はいやますばかりだった。なにせ食堂のおばちゃんは、たしかに食堂のおばちゃんのはずなのに、俺のことをまったくすこしも覚えていないようなのだった。
『おばちゃん?!』
『おまえは…&hell...
忘れもしない。あれは五年前のこと。
短い夏のおわりに、両親をなくした。
父はかなりな晩婚で、俺が生まれたときには、すでに五十を越えていたらしい。心臓は丈夫だったが、脳の血管が弱っていたようだ。雪がしんしん降る夜、洗い場でたおれたままいってしまった。
母はうさぎのように、さびしくなると死んでし...