6月自作 雨降り 「涙」 (後編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/06/30 22:34:08
当主さまは私の棺を荷台車に乗せて、王宮から逃げようとしたのです。 突然、当主さまをぶんぶん音を立てる蟲たちが追い立ててきたからです。一体どこから放たれたのか、鉄の殻をもつ蟲たちはとてもたくさんいて、当主さまを取り囲みました。 そうして一斉に歌い出したのですが。 羽音の歌に混じってはっきりと、固い声...
当主さまは私の棺を荷台車に乗せて、王宮から逃げようとしたのです。 突然、当主さまをぶんぶん音を立てる蟲たちが追い立ててきたからです。一体どこから放たれたのか、鉄の殻をもつ蟲たちはとてもたくさんいて、当主さまを取り囲みました。 そうして一斉に歌い出したのですが。 羽音の歌に混じってはっきりと、固い声...
天の涙が私を濡らします。 しとしと、しとしと、私を濡らします。 いいえ。泣いてなどおりません。私はただ、空から降るものを浴びているだけです。 「姫よ。姫」 私の足元にいるものが呻きます。しわだらけの手を伸ばし、私に爪を立てながら。 「姫よ。姫。我の血を吸え」
...
「カディヤ?! ぶ、無事か?」『ええ。大丈夫です。だって私の結界はびくともしてないでしょう?』「そ、そうだがしかし、心配でたまらぬ!」
おもわず走り寄った扉に輝きはない。 弟子は扉の向こうに立っているらしい。鍵穴の部分だけ結界を開けて言霊を入れてきている。 目にみえる淡い光の玉がぱん、ぱん、と室...
夢見の予言がなければ弟子を待つこともできたろう。だが啓示は、弟子の危険を知らせている。 ゆえにソムニウスは、ただちに脱出口を捜し始めた。 この房の壁が「魔力封じ」であると言うのは、まったくの迷信だ。 でこぼこな石面からはそんな気配も波動もまったく発せられていないし、唯一の出口であろう扉は、弟子の魔...
「くそ……!」
真っ白な息がぶわっとあたりに散る。力まかせに鉄板がはられた扉に両腕を打ちつけたソムニウスは、はあはあと焦りの息を吐いた。 ここは正殿の地下室。四方はでこぼこの石組みの壁で、かなり狭い。寝台はなく、ただ短い丸太が数本、転がっているだけだ。牢とは呼ばれていな...