銀の狐 金の蛇 17話 陥没(前編)
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/07/19 23:56:11
地底湖跡に弟子の姿がなかったゆえ、事態はソムニウスが最も恐れる方向に転がった。 首のない骸が担架で守衛たちに運び去られたあと。顔面蒼白でわななく国主が見守る前で、中年と壮年の神官が現場に集まり、空洞のすみにあいている小さな穴を検分した。 その穴道には、血の跡があった。毛皮神官の首から滴...
地底湖跡に弟子の姿がなかったゆえ、事態はソムニウスが最も恐れる方向に転がった。 首のない骸が担架で守衛たちに運び去られたあと。顔面蒼白でわななく国主が見守る前で、中年と壮年の神官が現場に集まり、空洞のすみにあいている小さな穴を検分した。 その穴道には、血の跡があった。毛皮神官の首から滴...
月に水はない。 昔だれかが教えてくれた。 黒くたゆたって見えるところは、あれは水ではないと。 あの人は一体だれであったのか……。 それはずいぶん昔のことで、娘はその名を思い出せない。 膝の上に載せられていたから、何も知らない幼子のころのことだろう。...
ソムニウスは弟子の姿を探して、ふわふわ礼拝堂に入った。 しめやかな音の塊がおのが周囲をくるくる回っている。数人の奉り人が祭壇の脇で、細い筒がつらなった楽器を奏でているのだ。 祭壇前の棺にひとりすがって嘆いているのは、若君の奥方にちがいない。 よく見てみれば祭壇にも棺にも、なんとも細かい彫刻が施され...
第二の犠牲者。レイレイの姉は、国主の実の娘。 わかった事実にソムニウスはなるほどと思った。 彼女が銀狐の毛皮をはおっていたのは、こういうわけだったのかと。
(つまり現国主とその子が、身分を示すためにはおるもの、というわけか。となると。あの赤毛の毛皮神官も国主の子か?)
さらにひそまる老人たちのひ...
遺書は、もう書いている。いつ死んでも大丈夫なように。もう何年も前から用意している。
(私はお師さまのようにひどい奴じゃない。我が子にして恋人たるあの子を決して悲しませたりしないぞ。お師さまに去られたチルと、同じ思いはさせない。絶対に独りにはせぬ)
赤い服を着た子は、ソムニウスの心の臓を奪った。...