自作9月 島 「奇跡の子」
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/09/30 23:09:45
学都オムパロスは大陸の腹をえぐる黄海の真ん中にある。 大陸共通語ではナベルと呼ばれるが、その意味はずばり「臍」だ。 島は人工的に広げられており、ほぼ全域が白亜の街。七つの塔が針山のごとくそびえたつ。 島名すなわちこれ街の名であり、どこの国にも属さない。 「ここは大陸同盟の一機関。学...
学都オムパロスは大陸の腹をえぐる黄海の真ん中にある。 大陸共通語ではナベルと呼ばれるが、その意味はずばり「臍」だ。 島は人工的に広げられており、ほぼ全域が白亜の街。七つの塔が針山のごとくそびえたつ。 島名すなわちこれ街の名であり、どこの国にも属さない。 「ここは大陸同盟の一機関。学...
その夜は雨がしとどにて。 月は隠れまたたきは消え、なんとも冷えてわびしかった。 それゆえ、うるわしき姫は心配したのだろうか。いとしき方がこごえないかと。 姫は御霊(みたま)のまま飛んできて甘やかな声で歌ったので、白藤の中将は秋の夜長になぐさめを得た。 雪のようなましろの御霊は、焦がれるよう...
その隠れ道は細く狭く真っ暗だった。 ばしゃしゃと水をはねちらかし、ウサギの耳をゆらし。 白い子はぐいぐい士長をひっぱりながらしばらく進んだあと、けらけら笑って道から消えた。 急いで追いついてみれば、道は急な下りの坂道になっていた。 白い子と士長は、ぎゅんぎゅんするする道を滑り降りている。
「クラミ...
ふおんふおんとソムニウスの声音が響く。その波紋に触れた士長の肩がびくりと震え、手に載せられた刀が揺れる。首に刃をあてる彼の目に染み出しているのは、明らかなる動揺。導師の慧眼にさらされている、という恐れの色だろうか。 夢見の導師は相手の反論をまたず、畳みかけた。
「おそらく。士長どのがかばわないとい...
「そなたが殺人鬼? 嘘だ。違う!」
ソムニウスは反射的に叫んだ。 今は魚の血のせいで青黒いが、士長の刀はたしかに、真っ赤に血塗れていた。 しかし士長は今、なんと言っただろうか?
「刀の血糊を見たでしょう、だと?」
その言葉で夢見の導師は確信した。殺人鬼は、この男ではないと。
「士長どの。そなた、...