銀の狐 金の蛇28 「女神」中編
- カテゴリ: 自作小説
- 2018/02/27 10:20:15
炎の女神のかんばせが、ひくりと動く。 声が出せればこちらのものだと、ソムニウスは百の美の形容詞を並べ立てた。「秀眉麗目美声玲々……立てば芍薬座れば牡丹、歩くその姿は百合の花! 虹色の後光のなんとお美しいことか。これほどの精霊と契約できるとは、並大抵ではありませぬ!」 は...
炎の女神のかんばせが、ひくりと動く。 声が出せればこちらのものだと、ソムニウスは百の美の形容詞を並べ立てた。「秀眉麗目美声玲々……立てば芍薬座れば牡丹、歩くその姿は百合の花! 虹色の後光のなんとお美しいことか。これほどの精霊と契約できるとは、並大抵ではありませぬ!」 は...
(なんてことだ、湖全体に幻が映るとは)
幻影映る湖の中で、ソムニウスはおろおろ泳ぎまわった。 はずかしさのあまり水面を掻いて幻を小さくしようとするが、寺院の光景は、まったくゆるがない。 当然だ。 おのれは魂の状態なので、物理的なものには一切干渉できないのだ。 弟子が顔を真っ赤にするのではないか。...
【そう。これはあの日あのとき。けっして忘れようのない記憶】
――大丈夫だよ。 赤い服の子に答えようとするも。幻影の中のソムニウスから声は出ない。 吐き出されたのは、苦しい息とおびただしい血。 金切り声が、夕陽落ちる寺院の中庭に響く。『死なないでソムニウス!! いやああああっ!! カディヤのそばに...
言われて初めて、ソムニウスはおのれがしゃくりあげて泣いていることに気づいた。よくも叫べたものだと思うが、それは実際に口から出す音波ではないからだろう。意思の力が師の魂をゆさぶり穿ったのだ。「チル。ごめんね……。でも私は、あきらめない」「うう…&hellip...
「遺言? チル、それは天使のために残したんだね?」 師の黒衣がうねっている。熱を帯びてゆらゆらめらめら。 高温の漆黒が舞っている。「別れの詩でも書いたのかな?」「ち、ちがう! 絶対忘れないって書いたんだ」「ずいぶん感傷的だなぁ」 くすくす笑いが頭を撫でてきた。「く……!...