仮想劇場『セミと僕と感傷風景』
- カテゴリ: 自作小説
- 2025/08/16 10:56:27
「そうかぁ、やっぱりみんな出て行っちゃったんだなぁ。まぁ僕も他人のことは言えないけどね」 フジコ以外の同級生はみな街に出たそうで、地元にはもう誰も残っていないらしい。今日1日ぐるっと回ってみておおかた察してはいたことだが改めて聞かされるとやっぱりどこか寂しい気持ちにはなった。「あ、でもユウちゃんは...
「そうかぁ、やっぱりみんな出て行っちゃったんだなぁ。まぁ僕も他人のことは言えないけどね」 フジコ以外の同級生はみな街に出たそうで、地元にはもう誰も残っていないらしい。今日1日ぐるっと回ってみておおかた察してはいたことだが改めて聞かされるとやっぱりどこか寂しい気持ちにはなった。「あ、でもユウちゃんは...
ようやくもらえた長期休暇を利用して郷里に戻ってきた。といってもすでにここには実家はなく、ただただ懐かしい田舎風景がストンと転がっているだけで身を拠せるべき場所もない。 恰好ばかりの墓参りを済ませ小学校の裏道を千鳥足に交わし、子供のころよく遊んでいたお宮さんの境内に出る。 特に信心しているわけでも...
夏休みといえばお祭りとプール。かき氷に焼きもろこし。 お盆の準備に右往左往する母。 給水塔の濃い影に隠れた彼女のお下げ髪に水滴ひとつ。 そしてやはり軒下で扇風機と肩並べて頬ばる真っ赤なスイカの美味い事。 首振りに合わせて上半身をかしげながらの種飛ばし。 今年の僕は一味違う。去年の記録をあっさりと...