3月自作 たんぽぽ 「食聖」1/3
- カテゴリ: 自作小説
- 2017/03/31 02:58:17
わが名はフーシュ。母国の言葉で「魚」という意味だ。
わが国では、料理の腕、調理の才能こそが何ものにもまさる価値ある技能とされており、食材の名をつける親が実に多い。とくにフライヒとフーシュ、つまり共通語でいうところの「肉」と「魚」は、一、二をあらそう人気の名だ。
肉料理と魚料理、どちらも甲乙つけ...
わが名はフーシュ。母国の言葉で「魚」という意味だ。
わが国では、料理の腕、調理の才能こそが何ものにもまさる価値ある技能とされており、食材の名をつける親が実に多い。とくにフライヒとフーシュ、つまり共通語でいうところの「肉」と「魚」は、一、二をあらそう人気の名だ。
肉料理と魚料理、どちらも甲乙つけ...
眉根を寄せて、顔中皺だらけの最長老が聞いた。
『なぜそなたの母親は、そんなことを?』
『母さまは、夢で、いってたの。絶対ぬいだらだめよって!』
『む……』
――『なんとまあ。あの子、あなたと同じ種類の力の持ち主ですか?』
ハッとするテスタメノスに促されるま...
ソムニウスはしばらくの間、思考できなかった。
完全に意識が飛んでいたのだろう。
沈んでいたおのれを引きあげてくれたのは、囁くような歌声だった。
『兄はクラミチ走る森
両のかいなをケガミにくわれた』
どこかでだれかが、歌っていた。
『姉はクラミチ眠る石
両のくるぶしケガミ...
「うう……?」
夢から覚めたソムニウスは、簡素な寝台の上で大きく息を吐いた。
案の定、昔の記憶を夢に視た。脳内記録の再生だから、啓示ではないかもしれない。
酔いが重く体に残っていて、頭の奥がずきずき痛む。
花模様が彫刻された木枠の窓からみえる空は、濃い紺色。...
(舞台は山間の小国ユイン。神殿に泊まることになった師弟。弟子が手袋を手に入れにいっている間、ソムニウスは夢を見ます)***************
背後に、寺院が視える。
湖の岸辺にせり出す岩壁。そこにうがたれている無数の窓穴。
そして目の前には、蒼い蒼い、鏡のような湖――。
ソムニウスはき...