自作5月菖蒲 「ねこま憑き」前編
- カテゴリ: 自作小説
- 2020/05/31 23:47:23
一つ下の条《じょう》にお住いの若君が、ねこま憑きにならはった。 という噂が舎人《とねり》から舞い込んだもので、うちの姫さまは本日、ころころ笑い転げはっております。 畳台に扇をバシバシ、何ともはしたないご様子にて、乳母《めのと》さまも、女中のうちも、呆れ顔。せやけどまあ、いたしかたござい...
一つ下の条《じょう》にお住いの若君が、ねこま憑きにならはった。 という噂が舎人《とねり》から舞い込んだもので、うちの姫さまは本日、ころころ笑い転げはっております。 畳台に扇をバシバシ、何ともはしたないご様子にて、乳母《めのと》さまも、女中のうちも、呆れ顔。せやけどまあ、いたしかたござい...
しかしてつい最近スパルタは、戦場でエーリスを完膚なきまでに打ち破った。圧倒的に立場が強くなっている今、王はエーリスが主催する大祭など取るに足らぬもの、女性ですら栄誉を得られるものだと、大いに貶めたいらしい。
間男というのは、稀代の美丈夫、アルキビアデスのことである。あろうことかこのアテナイ人は、...
風が肩を斬ってくる。前方から打ち付けてくる風に当てられて、戦車を駆る男の頬が冷えてきた。小さな風の神(アネモイ)たちが吹き抜けていく音を楽しみたい。御者たる男は一瞬そう思ったが、今は戦車競技の真っ最中だ。もっと激しく、革の手綱を打たねばならなかった。 「がんばれ! 行け!」 御者は革の綱...
「今夜もよろしくね」 佳紫子(よしこ)が格子を下げると、御簾の向こうにいる御方が腰を上げた。 左大臣家の姫である女主人は、いそいそと単衣を脱ぎ捨てて、自ら少年がまとう水干に腕を通し、ぬばだまのごとき長い黒髪をひとつに結わえた。その手際の良さに佳紫子は呆れた。 「姫様、またもや...
「もっと色が無くなれ! 無になれ!」 願わくば。白い光が、我が身を消し去ってくれるように―― 揺れる鏡が発光しはじめた。どうっと、鏡面からまばゆい光が立ち昇る。 天に向かってきらめきほとばしる柱の中で、少年は叫んだ。今や彼は光に持ち上げられて宙に浮いていた。そんなすさまじい光に怯むことな...