Nicotto Town



【薫る】

【薫る】
広い図書館の窓際。小さい丸い机とそれに見合ったイス。そこが自分の特等席だった。
晴れた日には窓から陽の光が差し込みとても心地が良い。
ここに異動してきて6年。六年前のことは今でも鮮明に覚えている。もちろんその前の事も。

眼で見たものを忘れない能力。と聞くと羨ましがる人もきっといるだろう。
例えば、学生なら『教科書や授業の板書を覚えればきっと試験で有利になる。』とか。

では、この能力をこう聞いたら人はどう思うだろうか。【眼で見たものを忘れられない能力】

少なくとも最初の言い回しよりいいイメージは持たないはずだ。

嫌でも過去がまとわりつき、離れず、それが少しずつ自分を蝕んでいく。

それでも、この力を欲する人はいるのだろうか。


最近、本を読みながらこんなことばかり考えるようになっていた。

本の内容がうまく入ってこず、パタンと手に持っていた本を閉じる。

前髪をかきあげて、窓の外を横目に見た。
陽の光や新緑がとても眩しく感じる。

なんだか、懐かしいと感じる風が静かに吹き、それにそっと身を委ねる感覚。

心地のいい、こんな感覚はいつぶりだろうか。

そう思ったとき、頬はすでに濡れていた。



(くゆる。1)




Copyright © 2020 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.