Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


運命のサイコロは神に微笑む

私は澪(みお)。

24歳。フリーランサーでネットのデザイナーをしている。

彼氏はいない。

いや、いたと言うべきか。

あれは8月、去年の夏だった。


―――「みお、クッキー取ってもらっていい?」

彼はそう尋ねた。

「いいよ」


思い返すのも懐かしい。

彼は、よくモノをおねだりするのが好きで、
なんでも頼んで買ってきてもらっていた。

正確には、私含め、周囲の人が買ってきていたのだが。

そんな話はどうでもいい。

私は今、ネットの案件に忙しいのだ。


―――「ここをこう、デザインしてほしいのですが」

お客は、そういう。

できる範囲で答えなくてはならない。

「そうですね。もう少し予算をいただければできますが」

私は仕事人だ。フリーランサーだろうが、
プロはプロ。

「分かりました。来週の木曜日にお見せします」

私はそう言って、電話を切った。―――


彼にはもう会ってない。

いや、厳密には会わなくなったというべきか。

彼のペースについていけなくなったのだ。

なんせ、夢を追っている。

もっとも、ネットで仕事を見つけてはくるが
自由業として成り立たないから収入は彼女頼りだ。

彼の偉いところは、電気代や水道代は自分で払うこと。
もちろん、管理もしっかりできている。

なけなしの貯金から、毎月それを払うのだ。


―――「あぁ、みお?」

彼から電話がかかってきた。

あれから3か月。

ついでに言うと、今から3か月まえ。

「おまえに言うことはない」
はっきり言ったつもりだった。

もっとも、今でも好きなんだけど。

もう少し、大きくなってからにしてよね。

「分かった。切るわ。また会えたら」

彼は電話を切った。あれから3か月、
まだ一度も話していない。


彼には、特殊な能力がある。

もちろん、私との間にだが。

異次元通信。いわゆるテレパシーだ。

人間には、脳の情報空間で
意志疎通をする能力があるらしい。

もちろん、どんな距離でも話せる。

社会環境の影響で、
それに気付かない人が多いだけらしいのだが。

かといって、その能力はロクに使っていない。

彼は使っているつもりだろうか、
それは他の人と話すのに使ったらいいことだ。

私は今忙しい―。それに、
―――彼のことが好きになってしまうから。


彼は、“会話”能力を使おうとしない。

もっとも、それは私を疲れさせることが
分かっているからで、

あえて電話をかけてくる。

もっとも、今はそれも途絶えてしまった。


数日前、彼からこんな「メッセージ」があった。

「ちょっとひらめいたんだ。来てほしい」

電話でもない、ほんのささやかな問いかけだったが、

私はすぐこう答えた。
「まっててね、今いくから」


2月28日、今日は彼の誕生日だ。

ケーキも持たず、彼の家に行く。
彼の家は、5階。

509号室。

西の角。階段出てすぐ。

私が持っていたのは、鍵だけ。

大切な彼の、大事なものを開けるための鍵。

「ごめんください」
私はドアホンを押す。

「いいよ」
彼はそっと囁いた。私の耳の中で。

そっとドアを開ける。

ガチャ―


「よく来たね。今日はいいものを見せてあげるよ」

彼はいつもと変わらない感じだった。

まるで何か月も会っていなかったことはなかったかのように、
嘘みたいに平然な笑顔でいる。

「あの、拓海?今日は誕生日だよね」

「じゃぁ、開けようか」
拓海はややあってそうつぶやいた。

私が持っていた鍵で開けたのは、
大切な小物入れ。

中には、30万円と、印鑑と、
それから、指輪。

「なにこれ、まだこんなものが」
私は指輪を手に取ると、
こんなものが、と言わんばかりに

手でもてあそんだ。

「それ、はめてあげようか」
彼はそっと心の中でつぶやく。

口で言えばいいのに。

「はい、どうぞ」
彼は口で言って、指輪をはめてくれた。

付き合って10周年の、
ちょうど記念に買った指輪を。


「あのさー、30万円なんに使うつもり?」
拓海は何気なく聞いた。

「え、開業資金……」

「俺、役に立てるかな……」

「今度は、足引っ張らないでよね」

私はそう微笑むと、
彼の指をもてあそんで笑った。

30万円と、指輪。

ほんの開業資金と、彼への質。

変わらない愛という形で、彼は払ってくれた。

預けた利子は、ほんの幸せという形で返ってきた。

「あ、それから、仕事やめなくていいからね」
彼はさりげなく言った。もちろん、本業は続けますとも。

預けた指輪が、ほんの思い出にならないうちに……

私は夢に思いを馳せ、彼との未来が思い浮かぶまで黙想した。

「見えるよ、いつまでも一緒の姿が」


END


サークルの企画で書きました。

ストーリー研究部(管理人やってます)
http://www.nicotto.jp/user/circle/index?c_id=225976

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2013/12/18 20:59
よかったと思います。
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2013/12/18 20:51
いい話ですね~^^*
言葉使いもすごいですねb
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2013/12/15 10:36
ありがとうございます^^
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2013/12/15 01:30
百田さんのような面白いストーリーテラーですね
おもしろく拝読いたしました。
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