Nicotto Town



現代の焚書候補としてのレム


半世紀以上愛読してるレムの諸作に関してなんですが、
日本が、世界が、決定的な変質を遂げつつある現代、
レムの享楽的悲観主義は、論理的に否定され抹殺される、というのが結論です。

レムが幾許かの信頼を寄せ続けた知性というものと、
現代社会で不可欠とされる【知性】とは全く別物でございます。
彼のヒューモア(北杜夫的に)と、現代溢れかえる【人道主義】も似て非なるもの。

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ちょっと脱線。SFやアニメで『国軍』の描き方がどのように変化したか考えた。
50年代~60年代のSFや特撮における『国軍』は侵略者や怪獣とだけ戦った。
私は視野狭窄に陥った護憲派の生き残りの一人として、この作風を好む。

ミリタリーSFとして『宇宙の戦士』が紹介されたときの批判はスゴかった。
いささかヒステリー気味じゃないの?と思ったが、日本とは無縁だと思ってた。
20年ほど経過して『宇宙戦艦ヤマト』が出た。あ、こりゃヤバいという気がした。

『機動戦士ガンダム』に至って、このヤバさは加速することになった。
優れた次世代による新時代構築のためには粛清と断罪が不可避になった。
この轍を踏まなかった『イデオン』は好みだが、時代はガンダム化を始めた。

アメリカSF界でミリタリー系の成長物が売れ、国内でもこの亜流が現れる。
PKO法案というものが世間を騒がせた頃、時代とSFがリンクした。
架空戦記物がけっこう売れ続け、昭和が終わるあたりから更に変化した。

マンガ『沈黙の艦隊』が売れ、有川浩氏の諸作がベストセラーとなり、
私も読み楽しみつつ、ヤバさが加速しているという感慨も抱いた。
銀座に異界と繋がる門ができ、自衛隊が異界でPKOをやる話まで生まれた。

こりゃ改憲は必然だ。国民が『国軍』を愛し必要としてるんだもん。
戦後SFを支えた小松は、星は、光瀬は……死んでてよかったと思ってるかも。
『国軍』は必ず誕生する。我々国民の総意として。……ケッ。

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軌道修正、いや修整。レム作品の登場人物が戦う相手に【敵】はいない。
『金星応答なし』の金星文明すら、絶対悪とは描かれていない。
有機的海やナノマシンは単に理解不能な、人類とは別種の存在というだけ。

ここでも補足。紋切型SFを批判したレムの有名な言葉を挙げとこう。
「宇宙とは、銀河系空間にまで規模を拡大した人類社会ではあり得ない」
コミュニケーションは原理的に不可能という彼の命題も大好きである。

現代、コミュニケーション障害というのが疾病の一つになっている。
コミュニケーションを否定するヤツは世界中探してもなかなか見つからない。
レムからすれば、コレがおかしい。それこそ疾病の一つである。

現代人は十全な意思疎通を求める。必ず分かり合える。努力を惜しむな。
議論大いに結構、正と反が合に昇華されるまでガンバリましょ。
もちろん個性、主張は無条件に肯定される。共感的理解があたりまえ。

レムは大笑いするだろう。吉本の『共同幻想論』を渡すかもしれない。
同調圧力によりかかる怠惰、何かにつけ謝罪を要求する傲慢な卑小さ、
議論でマウントをとれないと個を否定されたと勘違いする脆弱さが満ちている。

レムとて兼好法師と同じく壮大な自己矛盾の人である。
また彼の享楽的悲観主義は、兼好の普遍的無常観と同種のものである。
長屋の揉め事に辟易する大家やご隠居が、それでも住人を愛するのと等しい。

全て芸術とは何らの実利も生ぜぬゆえに素晴らしいのである。
古ぼけたこの命題に私は是と答えるわけなんですが、
精神の満足度が貨幣に換算可能と考える現代人には、偏見にしか見えんだろう。

大衆・組織に依存する無自覚さへの恐怖、マスに与する暴力性というのも
レムが全ての作品に取り入れた重要な心のありようです。でも。
承認欲求や帰属・所属意識の必然性を唱える方々には有害なだけですな。

レムのほぼ遺作である『大失敗』という長編、あまりにも暗示的です。
コミュニケーションこそが破局への第一歩である、という誤読も可能。
全ての悲劇は善人によって引き起こされるのです。必読と申し上げたい。

短編だろうとシリーズ物だろうと、レムの作品のメッセージにおいて、
現代の【知性】に溢れた【良識】人の眉を顰めさせないものはないでしょう。
売れっこない。読者も減り、いなくなる。それでいいの。燃やしてチョーダイ。

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同時期に読んだため、ネビル・シュートの『渚にて』で引用されている、
エリオットの『The Hollow Men』の抄訳と、レム亡き現代が重なる気がする。
インチキ意訳しておしまいにいたしましょ。

此は死人の地、仙人掌の地。
立ち並べられし石像は、
薄れゆく星の燭光の下、
死人の差し伸ぶる哀願の手を、
受けしよすがに建てられき。

末期の集いの場ですらも、
我ら互いに探り合い、
我ら語るをよしとせず、
爛れし汀に群れるのみ。

かくてこの世の終わり来たりぬ。
かくてこの世の終わり来たりぬ。←(ココだけは井上勇氏をパクってます)

予兆も惨劇もなく、ただ、啜り泣きとともに。













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