Nicotto Town


ユメノツヅキ


備忘録③


 約束の時間よりかなり早く到着してしまった僕は

(僕にはこういうことがよくある)
伊勢丹の本屋で文庫本を買い
スターバックスに行った
店はスーツ姿のサラリーマンやOLで
ひどく混んでいたけれど
空いている席を見つけなんとか落ち着くことができた
時間はたっぷりある
僕はたいして美味くもない珈琲を飲みながら
本を読み始めた
それが『岸辺の旅』だった
 不思議な浮遊感のある小説だった
それがその時の僕の心境によるものなのか
新宿というトランジットな空気のせいなのか
わからないけれど
あの時のスターバックスの窮屈なカウンターと
いつのまにか冷たくなった珈琲と
そしてこの不思議な物語のことが
今でも鮮やかに記憶に残っている
 映画がどこまで原作に忠実なのか
(小説の細部はほとんど忘れてしまっていた)
正直わからなかったけれど
あの不思議な浮遊感は損なわれてはいなかったと思う
3年間行方知らずだった夫が突然現れて
自分は海に身を投げて死に
からだは水底で蟹に喰われてしまったと告げる
(もうそれだけで
 現実は陽炎のようにゆらゆらぼやけて
 足下がおぼつかなくなる)
そして夫が死後に過ごした思い出の地を
2人で辿る旅に出るという
不思議な物語だ
 でも僕には彼らのこの不思議な旅路が妙に心地よく
この不思議な浮遊感に
いつまでもずっと揺られていたいと思った
本当に大切な人との旅路は
生者であれ死者であれ心地よいのだ
 うちの愛猫のらい君とうみちゃんは
生まれた時からずっと一緒の兄妹だ
だからお互いに遠慮がない
ふうちゃんやりゅう君がびっくりするほどの
激しい喧嘩をしたかと思えば
お互いに顔を舐め合って
くっついたまま眠ってしまう
まったく仲がいいんだか悪いんだか
でも兄妹なんてそういうものだ
猫だって人だってみんな不完全で欠けだらけだ
相手がどんなに大切な存在であっても
喧嘩もするし不機嫌になったりもする
それでも人生という旅路において
それはかけがえもなく心地よいものなのだ
 でも結局のところ
生者と死者とは一緒には歩めない
死の門をくぐったその時から
死者は違う世界の住人となる
その事実は何よりも残酷で悲しい
 彼岸と此岸
そのどちらかでしか生きられない僕たちは
いつかは
さようならと手を振らなければならない時を迎える
それがどんなに悲しくて
後悔に満ちたものであったとしても
  
 ジョージ・マイケルの“Jesus To A Child”を聴きながら
冷たくなった珈琲を飲む
すべてが失われる前に為すべきことをするのは
冷たくなる前に珈琲を飲むことに優るのだ










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2022/01/22 19:31
ユウさん
なかなか読書を目的に
カフェに行くってできないのだけれど
ぽっかり空いてしまった時間に読書って
僕は結構好きです。
そういう時間に限って妙に思い出に残ったりするんですよね。
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2022/01/22 17:03
カフェでまったりと読書、いいですね~ 
家や電車の中で読むのとはまったく違う味わいがありますよね。
 
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2022/01/22 13:22
ゆりあさん
大切な人ならそれが幽霊だって
構わないですよね。
そんな人間の弱さをついたホラー映画(ホラー小説)があります。
スティーブン・キングの『ペット・セメタリー』です。
主人公の気持ちが痛いほどわかる故に
怖い映画です。
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2022/01/22 11:08
おはようございます!

たいして美味くもない珈琲、でクスッとしちゃいました。
スターダストさんの読書レポ?(食レポ的な)で、
この岸辺の旅を読んでみたくなりました。
自分の大切な人は透け透けの幽霊でもいいから現れてほしいなと思います。
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