Nicotto Town


人に優しく。


  

だれか話し相手がいるというのはどんなに楽しいことかが、はじめてわかった。

自分自身や海に向っておしゃべりするよりはずっといい。

「お前がいなくて寂しかったよ」と老人はいった、「なにをとったかね?」

「はじめの日に一匹、それから二日目に一匹と三日目に二匹とった」

「大出来だ」
...

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可哀そう

野々村はもう泣かなかった。

「僕は妹が可哀そうで仕方がなかった。しかし死んでしまえば人間は実に楽なものだと僕は思って、心をなぐさめている。妹は本当に成仏したのだと思っている。いくら可哀そうに思っても、妹には通じないが、実に可哀そうなのは生き残った人間で、死んだものは、もうあらゆることから解放さ...

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微笑

今夜、十本、一気に注射し、そうして大川に飛び込もうと、ひそかに覚悟を極めたその日の午後、ヒラメが、悪魔の勘で嗅ぎつけたみたいに、堀木を連れてあらわれました。

「お前は、喀血したんだってな」

堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、いままで見た事も無いくらいに優しく微笑みました。

...

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白薔薇

六十歳で出稼ぎをやめて、郷里の八沢村に帰ることにした。

純子とはもう逢えなくなるから、最後の日に「新世界」に白薔薇の花束を抱えていった。

彼女の前に真っ直ぐ立って、「さようなら」と花束を渡すと、「ありがとう」と白薔薇に顔を埋めた彼女は、強い香りの中に閉じ込められたようだった。

悲し...

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坊や

ぼくは彼女の顔に浮かんだ期待と、ぼくを認めたときにその期待が喜びに変わって輝くのを見た。

近づいていくと彼女はぼくの顔を撫でるように見つめた。

彼女の目は、求め、尋ね、落ちつかないまま傷ついたようにこちらを見、顔からは生気が消えていった。

ぼくがそばに立つと、彼女は親しげな、どこか...

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