Nicotto Town


COME HOME


「ぼたん③」

「なんかさ、クラスメイトの女子を見てると、キモチワルイんだよね。積極的すぎってゆーかさ。髪染めて巻いたり、スカート短くしたり化粧したり。いかにもオープンて感じで、ヤダ。一概に悪いとは言えないんだけどさ」 

ふーんなんていかにも気のない返事をしたけれど、ソレはつまりアレですか。
中学時代の後半からこのクセっ毛をストレートにしようと試みたり(一応校則を考慮しつつ)、それこそ高校生になってからは先輩に目をつけられない程度に制服を着崩したり、ビューラとマスカラの二刀流でぱっちりおメメをつくったり(慣れない頃はよく瞼を挟んだものだ、懐かしい)しているこんな私もアナタの言うキモチワルイの部類に入ってるんですかそーですか。ソレはいくらなんでも、腐れ縁に対しひどすぎじゃない? 親しき仲にも礼儀アリでしょう?

 「声に出してないつまりだろうけど、漏れてますから。本音」
「え」
「確かに美花は変わったけど、ソレはどっちかってゆーとキレイになったとか良い意味でだと思うよ」
「え」 

二度もうろたえる私をよそに、晴隆は続ける。
「腐れ縁がキレイだから、周りに興味がないのかな」
〝腐れ縁〟
幼稚園・小学校・中学校とクラスはずっと同じ。家は近いなんてベタな設定は残念ながらない。今年の冬に同じ私立に受かり、違う公立には両方落ちたという笑えない笑い話を築き、現在に至っている。なんとも長い付き合いだ。
この繋がりの名が、私の内で変化し始めたのはいつからだろう。
〝片思い〟という一方的な感情にその名が変換されたのは。

時期はあいまいだ。中学二年へ進級したての頃はそうでなかった覚えがある。意識するには程遠い存在だったはずだ。近すぎて視認不可能というか。
思い返せば、恋に落ちていた私は知らず知らずのうちに自己の蛹にヒビを刻み、自覚したその瞬間羽化を終えたのだ。硬い殻を捨てて見た景色は色鮮やかの一言に尽きた。
晴隆のせいで一期一憂する世界は暖色と寒色その両方に満ちていて。明るいも暗いも含めて晴隆のいる日常はカラフルだった。
花弁をいく重にも連ねた花に沈んでいくようにゆっくりと、優しい感情にくるまりながら、少し遅いであろう初恋に私は夢中になっていった。

だから、少しでもキレイになれるように努力した。今も昔も天邪鬼の私は晴隆の理想なんて聞く術を持たず、ただそれしか好かれる方法なんて思い浮かばなかった。
震える手で少しずつ眉を慎重に剃り、雑誌や鏡とにらめっこし。その結果が、花のような人が良い、だなんて。私の貴重な時間を返せバカヤロー。キレイって言われるだけじゃ、意味なんてないんだから。その向こう側にあってほしいと願う感情を、私は求めている。

一人渦巻く感情を持て余していれば、晴隆はぶらんこから腰を上げ、早々に帰る準備をしていた。

 「ちょっと、帰る気?」
「ん、まあね。明日もテストだし」
「最終日で保健と家庭科だけじゃない。勝手に人を呼びだしといて、コレ?」 

つまりは遠回しの「帰るな」自分の不器用さに泣けてくる。
勝手なのは、呼ばれて一緒に並んで歩けることに乙女心が舞い上がった私の方なのに。期待した私が、文句を言える立場なんかじゃないのに。
傍若無人さに決まりが悪くなりうつむく私に、エナメル質のスポーツバッグを肩にかけ晴隆は言う。

「ごめんごめん。久しぶりに美花を見かけて嬉しかったから、ついね」 

温和な笑顔と、その一言が私を踊らせる。こいつは天然のたらしだ。末恐ろしい。
止まっていたぶらんこを一際前後に動かし、鎖から手を離す。ちょっとした浮遊感の後の着地。不安定なその感覚が、宙ぶらりんな恋心と重なった。 

「じゃな、美花」 

見送る背中に、小声で罵る。

 「気づけよ、バーカ」 

好き、なんだよ。

***
おわれ。

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2010/10/23 18:39
咲月>

リア充爆発しておしまい(^p^)
アバター
2010/10/22 20:22
ちくしょう!リア充め!!!



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