Nicotto Town



初夢の続きは (13)

緑の密度が濃くなった。

上下左右あらゆる場所から空間が狭められているような感覚。

狭められた空間に風穴を開けたからだろうか?

緑に埋もれ眠っていた空気が吹き抜けていった。

するとなんだか奥の方から、囁き声が聞こえてきた気がした。

それは懐かしいようで、少し悲しいような

まるでレコードが奏でる音色のようだった。

そいつは、僕を見定めるかのように頭の周りを一周すると

首の後ろの辺りからじぃんと沁みこんで行った。

「え?」

不可解な感触に、思わず声をあげた。

けれど、その声は直ぐに周囲の緑に吸い込まれ

鳥の囀りと、木々のざわめきの一部になった。






初夢の続きは13 『Deep Breathing』






松梨が選んだのは意外なルートだった。

ずっと進んできた国道から逸れ、巨大な森へ向かっていた。

鬱蒼と生い茂る森、そしてそこへと続く道。

てっきりその道へ進むものだと思っていたのだが、彼女は、そこへとは向かわず

またも大きく逸れて、道無き道へと踏み込んでいった。

そこは狭く、道かどうかも怪しい感じ…。

まるで、けものみち…ん? けものみち?

「おいおい、道合ってるのかよ?」

「ん~?あってるよぉ」

やや頼りないトーンだが、松梨には間違っているという認識は無さそうだった。

「どう見ても、あっちの道が正解だろ?」

自信ありげに、森への道を指差すが

「ああ~あれは正面まで行っちゃうから遠回りなのよ」

と、振り返りもせずに松梨はずんずん進んでいった。

言っている意味はよくわからなかったが、どうやら間違っては無かったらしい。

石で作られたバリケードの様な所から森へと侵入した途端

奇妙な感覚に襲われた。




…息苦しい。

鬱蒼とした森の中は。昼間なのになんだか薄暗かった。

密度の濃い緑に、目も耳も塞がれて

けれども感覚だけは妙に研ぎ澄まされていているようで

空を見上げると、かすかに筋のような青空が見えるだけ。

深い海の底に、沈んでしまった。 そんな気分にもなる。

森の奥に目をやった瞬間、何かが聞こえた気がした。

あそこまで行けば、緑の海の底から浮上できる。

そう直感し、そこに向かって泳ぎだすことにした。

泳ぐといっても実際にしたのは大地を蹴って進むことだ。

苦しくて、何度も瞑りそうになる目を必死に開け

クロールの手付きで、もがくようにてを伸ばす。

光のあるほうへ!水面へ! 体を手繰り寄せるように進めた。

すぐに水面まで辿りつけるだろう

そう高をくくっていたが、実際はそうではなかった。

木の根や剥き出しの石などで、足場はお世辞にも平坦とはいえない。

そこを慌てて駆け上がろうとしているのだから、

何度もバランスを崩し転びそうにもなる。

息も上がり、もうだめだ! そう思った時! 視界が開けた。

浮かび上がった!

緑の呪縛から解き放たれた瞬間、空気・光がいっぺんに体へ取り込まれる。

それらは体の隅々まで行き渡り、暖かく包んでくれた。

戻ってくる体温にほっと胸をなでおろし、安堵感に浸っていると

松梨の声が聞こえてきた。




「悟君、2番~」

水面を目指していたと思っていたが、なんてことは無い。

結局、松梨を追いかけていただけのことだった。

半べそをかきながら梅子も登ってきた。

彼女は悟が自分を置いていったことにびっくりしたようで

「どうして? どうして先にいっちゃうの?」

と半泣き状態で、僕をトントン叩いた。

素直にさっきの出来事を言うのは、なんだか情けないように思えて

「なんかトトロが見えたんだよ!」

「え? どこどこ?」

松梨も梅子も、辺りを見回し始めた。

こんな手が通じるのかよ…。



「と、いうわけで~ジャッジャーン!着きました。瀬戸神社デース」

松梨は嬉しさからか、少しおどけた調子で言った。

その言葉で少し元気が出たような気にはなった。

「というわけでお願いにいくわけですが~」

ですが~の部分にすこし引っ掛かりを感じた。

まだなにやらアリそうだからだ。

「お願い事は、1人ずつすることにします。

最初は私が行くから2人は、その辺の石段にでも座って待ってて」

そんなルールがあるとは思いもよらなかった。

じゃあ初詣は完全にルール違反だな。

と思いはしたが、口に出すことはしなかった。

松梨に促されるまま、梅子と二人石段に腰掛け空を眺めた。



2人言葉もなくしばらく、ぼーっと空を眺めていた。

「空とは青く美しいと思いませんか?」

突然発せられたその言葉は梅子からのものだった。

「そうだねぇ」

何の気なしに相槌を打つ。

どこまでも広い空の青は、遠くで海の青と溶け

雲は、まるでそこを目指して広げた巨大な翼のようだった。

海のほうから、時々やってくる風は、

体の熱を奪いどこかへと運び去ってくれていた。

ただの石段が、ひどく贅沢な場所に思えるから不思議だ。

ぼっーとしていると突然目の前が暗くなった。

日差しを遮るように、そこ立っていたのは、一人の少女…松梨だ。

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2011/05/24 22:16
うーん。。なにかとリンクしてるんだよね?^^;
いろいろ以前の話に戻ってみたりしてるけど
よくわからない。。
またゆっくり読んでみるね^^
アバター
2011/05/24 17:26
おぉ~13だ^^
松梨ちゃんの今後が気になります。
アバター
2011/05/23 21:28
暦村くんはどこに隠れていたんだろ・・・?



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