夏花火【1】
- カテゴリ:自作小説
- 2011/07/24 12:00:15
今俺の目の前、お互いの息遣いが聞こえそうな位近い距離…半径50cm以内には
高校の時の同級生だった高橋美夜子が佇んでいる。
東京の某女子大学に進学したという美夜子は
白いワンピース姿でコンタクトにしたのか眼鏡もかけていない。
高校時代は地味に束ねていた漆黒の髪には緩いウェーブをかけて下ろして
すっかり都会の女子大生といった空気を纏わせている。
地面に屈み込んだ彼女の白いワンピースの胸元からは
青い血管が透けて見えそうなくらい白い肌と谷間が見え隠れしている。
角度のせいなのか、それとも眼鏡がないせいなのか睫毛の長さがやけに気になる。
今もしもここで何をしているかと警官に職質されたらこう答えるであろう、花火をしている。
それ以上でもそれ以下でもない。
そして俺と美夜子の関係もまた、元同級生同士で
たまたま一緒に花火をしているだけの関係。
それ以上でも、それ以下でもない。
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事の成り行きを説明するならば、話は数時間前に遡る。
夏の成人式に参加していた俺と美夜子は二次会へ行くグループとはぐれてしまった。
世間一般の感覚では成人式は冬の専用祝日に振袖を着てやるものなのだろうが
ウチの地方では夏のお盆の頃にやる。
中途半端な田舎のせいか、かなりの人間が高校卒業と同時に
進学という大義名分をつけてこの町を出て行く。
なのでお盆で帰省する奴らが増えるこの時期にやるのだろう。
真夏なので振袖や紋付袴なんて着ている暑苦しい人間は皆無だ。
女子は大概美夜子が着ているような涼しげな夏のワンピース等を着て参加する。
簡素なものだ。
一度か二度しか袖を通さないであろう振袖を購入したくない親にとっては
好都合かもしれないな…なんて事をボンヤリ考えているウチに
成人式も滞りなく終わり、申し訳程度の同窓会を兼ねた会もつつがなく終了。
俺も美夜子も何となくの流れで二次会のグループに着いて来てたものの
はぐれたのにわざわざ再合流してまで参加したいってわけでもなかったので
どこかで適当にお茶でもして帰るかという結論に落ち着いた。
それが何故深夜営業もしているカフェではなく
こんな海辺で花火する羽目になったのかというと
今、俺の目の前に居る同級生高橋美夜子が希望したからだ。
お茶しようとは言ってももうそこそこいい時間で…
いや、東京ならまだ全然余裕なわけだが
成人式を夏にやるような田舎の21:00過ぎに開いてる店なんて
コンビニか居酒屋くらいの物だ。
つまり、入る店に窮して困っている俺に美夜子は花火を提案したのである。
それ程話した事もない女子と2人きりで花火というのもどうかと思ったが
他にする事もなく…かと言って俺が二次会グループにはぐれさせてしまった責任もあり
このまま帰してしまうのも後味が悪かったので彼女の提案を採用したのだ。
幸い近所の寂れたコンビニにファミリー向けの小さな花火がポツンと売れ残っていて
それと一緒に100円ライターと仏壇用の蝋燭を購入。
それから歩いて15分位で着くこの海岸まで花火をしにきたってワケだ。
…と、いう訳で回想終わり。
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「さっき…」
不意に美代子が口を開く。
「遠藤君が声、掛けて来てたでしょ?」
「ああ…」
そう言えば酔った勢いもあったのだろう。
遠藤の野郎にやたらしつこく絡まれていたのをボンヤリと思い出していた。
元々成績優秀でスポーツも万能、モテる男のテンプレートを地で行く遠藤は
勿論今日の同窓会でも女子達に囲まれていたのだが…。
何故かその女子達の輪をかいくぐって、
1人ポツンと寂しそうにグラスに口をつけていた美夜子に声を掛けに行ったのだ。
まあ男として遠藤のその反応は正しいものだとは思う。
本人-美夜子自身-に自覚があるかどうかは定かではないが、
彼女の容姿は確かに際立って目を惹いた。
大学デビュー、という言葉を体現するかのように垢抜けた彼女は
高校時代の地味で目立たない少女ではなかった。
そんな彼女を口説こうというのはある意味男として自然な行動だろう。
俺はと言うと、遠藤と親友だったわけではないもののそこそこ親しくしていた事もあり
絡まれてどうしたらいいか分からず固まってる美夜子を見かねて
奴をなだめる役を買って出てしまったのだった。
確か俺も美夜子も二次会へはその流れで誘われたはずだ。
「ちょっとね…ガッカリしちゃったの」
一瞬言葉の意味が飲み込めず、俺自身に言われた事だと思ったのだが
そうではないと気付く。
「私ね、高校時代に遠藤君に名前覚えてもらってなかったんだ」
ポツポツと語り始める美夜子。
だが目線は白くて細い指先で摘んだ先の花火に落としたままに。
「昔は、ちょっとだけね…カッコいいと思ってたんだけど。」
長い睫毛と今が盛りと咲き誇る火の華を交互に見比べながら
美夜子の紡ぐ言葉に耳を傾ける。
何だ、そういう事か…。俺は何故かひどく落胆した。
アバの服装から何となく書いてみた短編です。
特にこれといって面白味のある小説じゃないですがインスピレーションを磨く訓練を兼ねてw
感想コメントありがとうございます。
やっぱり感想いただけると励みになります^^
実は当初の予定ではちょっと古風な雰囲気を出したかったので
美代子(みよこ)にしようと思っていたのですが
変換したら某ドラ○もんの登場人物の漢字に変換されたので
音だけそのままに美夜子になりました^^;
でも今となっては夏の夜に掛っていてよかったかなぁ…とw
拙い文章力ですが、次回も読んでいただければ幸いです♪
なんかネーニングに思いいれ感じました
遠藤君 遠い思い出に ちょっと哀愁も感じます
海辺の新しいトキメキのようで、都会に戻る女子大生 と 田舎に残る幼馴染
この微妙な、中途半端な思いが夏の夜の花火のような・・・
なんとなく素敵な夏の夜でありますように