Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


フィオルという男 (青く輝く鳥のつづき)


 死を選ぶことは罪ですか。


 崖から飛び降りた少女、メイリィはそう言った。

 彼女は「ぎこちない」笑顔だった。明らかに無理をしているのが見てわかる。そんな笑顔だった。

 それでも・・・彼女が飛び降りる瞬間に見せた笑顔は本物だった。まるで「死」を受け入れ、喜んでいたかのような。

 だが、泣いてもいた。

 ほんとは死にたくなかったの・・・。

 それが彼女の無言の叫びのようだ。

 ボクは今、メイリィと同じ「ぎこちない」笑顔をしている男の顔を眺めている。

 出会って、数分経つというのに声が出ない。

 スコットは兄、フィオルとの再会が嬉しかったのか、我を忘れたかのように、ただ兄、フィオルを抱きしめて、むせび泣いていた。「兄さん、オレ・・・オレ」っと、ただつぶやいている。

  だが・・・フィオルを知らないボクと、ニナはまだベッドの上でスコットに抱きしめてられている男が、「フィオル」だとは思えないのだ。

 スコットの兄なら・・・白髪のわけがないのだ。

 

 そして何よりも彼は「死」を覚悟し、「死」を望んでいる。


 それは初対面であるにも関わらず、ボクの過去の記憶がそう語っているのか、メイリィがボクにそう思わせているのか・・・それはわからない。

 ただそう感じるのだ。

  ボクはおそるおそる・・・口をぱくぱくと、動かしてみた。

  行動と意識がつながらない。声は出なかった。

  ダクトおじさんが「こちらにいるのがフィオル様です」と、告げてからどれくらいたっただろう?時を動かさなくては。

ボクはもう一度口を動かした。

 「・・・あなたがフィオル様なのですか?」

 

 ボクはやっと声を絞り出し、それだけを口に出来た。

男、いや、フィオルはスコットを横にどけてから話し始めた。

  「私は見てのとおり、白髪だ。これは血を流しすぎたせいだ。気にするな・・・白き聖剣は私の身体の中にある。今となっては私の命そのものだ。私はこれのおかげで命を永らえた。黒騎士たちの執拗な攻撃にも耐えることができた。白き聖剣の名前は知らない・・・私は残念ながら持ち主にはなれないらしい。ゆえに手放す。それは私の「死」を意味する。言っていることはわかるな」と、フィオルは言う。


「ボクはすでにレヴァンティンを持っている・・・あなたが持ち主に選ばれないのなら、スコットが選ばれるのではないのか?」と、ボクは感じたことを口にする。


「いあ、それならすでにスコットに移動させている・・・。だが、白き聖剣は首を横に振るばかり。これは私の勘だが、お嬢さん・・・あなたに期待している。さもなくば、我が妹、アマテラスかだ。こちらに来て私の手を触ってくれないか」


 ニナはボクの方を見る。


 「うん。お願いする」と、ボクもつぶやく。


 ニナは意を決したのか、それでもゆっくりとフィオルの腕に触れた。


 触れた瞬間、青い稲妻が見える。

 「きゃっ!」と、ニナはすぐに手を離し、後ろへ倒れていく。


 「!!」と、ボクはニナの肩を支える。


 「カラドボルク・・・それが白き聖剣の名前」と、ニナはつぶやき、意識を失った。


 「どうやら、お嬢さんを選んだようだ・・・白き聖剣にどんな力があるのかは私にもわからん。ただ私の身を回復し続けてくれたことだけしかな。私は持ち主ではなかったしな・・・。それよりも・・・白と黒がこれでそろった。二人で大陸南西の地下神殿へ向ってくれ。それで魔王は「力」を失う。だが・・・向こうもそれは承知の上。そこで待ち構えていることだろう。だが・・・行く前に魔王の星を壊す企みを止めて欲しい。北に・・・。雪の国レコムンドを解放して欲しい。そうすることで怖ろしい兵器の建造を止めれるはずだ。もしも間に合わなかった時は、大陸南西の地下神殿へ向え・・・。アマテラスも知っている。いあ、王家なら誰でも一度は聞いたことのあるおとぎ話さ。あれはホントだったと、伝えてくれ。ダクトじぃ・・・今までありがとう。私は・・・少し休むよ」


それがフィオルの最後だった。


メイリィと同じ嬉しそうな顔だ。


満足げな・・・まるで何かを成し遂げたような。


いや、成し遂げたのだろう。


「死」を前にしてあれだけしゃべれたのだ。


偉業に違いない・・・。


頬を伝う熱いモノを拭こうともせず、ボクはただフィオルを見つめた。


またするりと、「命」がボクの手の平をすり抜けていった。


いや、助けようと・・・救おうと考えること自体がおこがましいのかもしれない。


 「死」を選ぶことは罪ですか・・・

 ほんとは「死」にたくなかったの・・・


 メイリィがそうであったように・・・フィオルもそうだったのかもしれない。


 ダクトおじさんを含め・・・スコットと、ボクは大声をあげて泣いた。 

 身体が動きたくなるまで・・・ボクたちは泣き続けた。


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2011/10/17 06:57
 またこれからが大変な事になりそうじゃね…



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