Nicotto Town



星を盗む男 (6)


「おい本当か? で、アッチのほうは期待していいんだよな?」

男は、身を乗り出して聞いて来た。

本当に、自分の欲望にストレートな奴だ。

質問には答えず、含みのある笑いを返してやった。

「そこにあるイーゼルを担いで、ついて来てくれ」

それだけ言うと1枚の絵を抱えて歩き始めた。

「ん?どういうことだ? なぁおい!ちょっと待てよ」

後ろから、不満げな男の声が聞こえたが、無視して歩いた。

すこし遅れてドタバタした足音が、しかたなさそうについて来た。

秋とはいえ、海はすぐそこ、夜の港は少し肌寒かった。

遠くに、街の明かりはわずかに見えるが、倉庫街のこの辺りは、真っ暗だった。

果てしなく広がる漆黒。その濃い黒を縫うかのごとくライトの光はうねって進んだ。 

あたかも蛇のように。



「よし!このへんで、いいだろう」

少し開けた場所に出ると、俺は男にイーゼルを置くように促した。

男は無言で、イーゼルを展開する。

俺はそこに絵を立てかけた。

そして、無言で地面へと腰を下ろした。

何のことだかサッパリな男は、イラつくように語気を荒げて聞いてきた。

「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? ローゼンファイルはどこだ?」

俺は、懐から懐中時計を取り出し時間を確認した。

(まだ少し早いか)

懐中時計をしまうと、胸ポケットから少しくしゃくしゃになった煙草を取り出し

男の前に差し出した。

「ま、吸っとけ」

「あいにく禁煙中なんだ、俺を肺ガンにしたいのか?」

思わず噴出してしまった。どう見ても肺ガンなんて気にする顔じゃない。

「七十歳の誕生日に何をするか、考えてるようなタマじゃないだろ?」

俺の言葉を聞くと、男は観念して一本煙草を箱から取り出し咥えた。

男の煙草に火をつけてやると、俺は自分でも一服やり始めた。

紫煙が2つ、闇に棚引く……。

その先には赤い光点がふたつ、静かに揺らめいた。

それはまるで、砂漠に咲く花のようでもあり、蛍の逢瀬のようでもあった。

赤い光点は、時折動き、時折消え

2人は無言のまま、静かに時は流れた。



「なあローゼンファイルはどこに隠してあったんだ?」

唐突に男は切り出してきた。

「ん? ああ魔鏡の中さ」

「魔境って、インディジョーンズが行きそうなあれか?」

本気なのかボケなのか判定しづらい反応だ。

「そっちじゃない鏡のほうだ」

「鏡なんてあったか?」

「あの絵自体が鏡なのさ」

「どういうことだよ?」

「この絵の表面には近くでも容易にわからない程度の微細な凹凸がある。

 これに特定の周波光を反射させると凸面鏡の部分では光が散乱し影に、

 凹面鏡の部分では収束し光の様な文様になる仕組みだ」

「はぁ?」

予想外の言葉の羅列に男は、目を丸くした。

俺は、構わず解説を続けた。

「微細な凹凸である為、普通に見る分には通常の絵に見える。

 だが結像させる距離を数メートルほど長くすると光の焦点がずれ始め文様となって見えるのさ」

「お前が何を言ってるのかサッパリわからないんだが…。

 要するにライターの火を当てたら何かが出てきた、ってことだな?」

「平たく言えば、そういうことさ」

「最初からそう言えって! で何が書いてあったんだよ?」

俺は、そんな男の台詞を制し煙草の火で上を指し示した。

男はつられて天を仰ぎ見た。

頭上にあったのは満天の夜空。

辺りが暗い為か、空気が澄んでいるからか、都市部とは比較にならない数の星が瞬いていた。

男は不思議そうに空を見上げていると、星が一つ流れた。

「ほら、ひとつ流れたな」

俺は、さして感情も込めずに言った。

それを聞いた男は、呆れたように言った。

「これだけ、星があるんだ。 ひとつこぼれることだってあるさ」

「そうだねぇ」

これから起こることを知っている俺は、笑いを堪えるのに必死だった。

アバター
2011/11/20 18:57
何が起こるか楽しみ♪。
アバター
2011/11/20 02:15
何が起こるんだろう~?




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