俺は一晩中周りを警戒して起きていた。
みなわは…見知らぬ船室で、よくこんなに爆睡できるもんだ。
朝、俺はようやく眠りについた。
直後に、
「起きてピーちゃん！いつまで寝てるのよ！！」
頭の上でみなわが叫ぶ。
「………ｷ」
「着いたよ」
俺は一気に目が覚めた、が！
「キキー（まぶしいー）」
「朝だもん」
分かっていて起こすか？俺を！
確かに船足が落ち、どうやら停泊するようだ。
背後の足音が聞こえ、スーツの男の声がした。
「今からンゴロンゴロに行ってもらう」
「ゴロンゴロンしに行くの？」
「キキキキー（それなら、普段のみなわだろう）」
「エヘン！ンゴロンゴロだ」
「……なによ、それ？」
「アフリカにある世界遺産だ。今から４８時間で、あるべきでないものを探し出して、見つけたら、このスイッチを押せ」
男は、手のひらサイズの大きな赤いボタンスイッチを渡した。ファミレスで店員を呼ぶ、例のスイッチに似てなくもない。
「それと、国立公園だからその銃は持ち込み禁止だ」
男はみなわから銃を取り上げ、妖刀ムラマサを胡散臭げに見た。
みなわは、ムラマサを胸に抱えて絶対に手放さないと声に出さずにアピールすると、いけしゃあしゃあと、
「朝ご飯は？」
と、言った。
おい、この期に及んで飯か？俺はみなわの精神に感服する。
男がＭのマークのハンバーガーショップの紙袋を差し出して、
「二日分の食料と、水だ」と言った。

ボートに乗って、岸をめざし、みなわがボートから降り立つと、目の前に絶景が広がった。
「すごい…」
そういってみなわが振り返ると、そこにはボートも人も海も、何も見えなかった。

そこは、クレーターの端。
クレーターの底には草原が広がり、遠くに大きな湖が見える。
いろいろな動物が動いているのが見えた。
目の前には大きな虹がかかってる。
クレーターという大きな檻に囲まれた、サファリパークみたいだ…。
みなわは、紙袋を開けてハンバーガーを一つあっという間に食べると、
「…たぶん、この下だよね？」と、俺に聞いた。
めげないやつだ。
「キキ（そうだな）」と、俺は答えた。
みなわは大きな伸びをすると、一気にクレーターのふちを駆け下っていった。

俺たちは半日、クレーターの底の草原を当てもなく歩き回った。
「象はいてもいいよね」
「キー（たぶんな）」
「あれは何？」
「キキキ。キーキキ（カンムリヅル。もちろん、いていいんだ）」
「サイもいていいし、ライオンも、ジャッカルも、いていいよね」
もはや、質問ではなく確認だ。
「キーキキキ？（湖に行ってみるか？）」
「うん」
俺は、薄く目を開け草原を見まわした。
草原のあちこちに黄色や紫の花畑が広がり、楽園のような美しさだ。
夕暮れ近く、湖のほとりについた。
青く輝く湖を、夕日が赤に染めようとしている。
フラミンゴの群れが、夕日に向かって飛び立った。
「ねえ、ピーちゃん、夜になったら私は何も見えなくなるよ」
みなわが、下心満々に俺を見た。
「キー！キキ（俺に探せってか）」
まったく！俺は二四時間寝てないんだぞ！
湖のほとりで、のんびりと晩飯を食べ始めたみなわに、俺は言った。
「キキキ、キーキキキ（命が惜しくないのか！こんな見晴らしのいい場所で）」
「じゃあ、どこに行けばいいのよ？」
俺は、草原に身を伏せてゆっくりと近づいてくる雌ライオンを目の隅でとらえながら、すっこし離れた場所にある森を翼で指示し、夕空に舞い上がった。
「キー！キキキー！！（今だ！走れ！！）」
そう叫んで、俺は宙を飛んでみなわに襲い掛かったライオンの目をめがけ突っ込んでいった！