「ねえ、もう４カ所もまわったのに赤間道士に追いつかないし、いつになったら帰れるの？」
みなわの問いに、スーツの男が答えた。
「赤間道士を追いかけていたのか？」
「そうよ」
「なるほど…それじゃあ、赤間道士のいるかもしれない場所に連れて行こう」
「やった～！」
喜ぶみなわを見ながら、俺は今までで一番イ～ヤな予感がした。

翌朝、船は珍しく港に入った。
人影のないさびれた港に着くと、頭にヒヨコのララを乗せたみなわはパリで買った荷物を持ってタラップを降りた。
相変わらず腕にしがみついたリゲルと、肩に乗ったピーちゃんの距離は、少しだけ近づいたような気がする。
「ここは？」
「ここは本来の世界遺産のコースからは少し外れているが、参加者の健闘を祝して時々開かれる舞踏会へ招待されたのだ。赤間道士だけではなく、現在ツアーに参加しているメンバーが集うことになる」
よく見ると、霧の中に何艘かの船が停泊している。
「舞踏会場は、この道を上った先にある城で行われる」
スーツの男はそう言うと緩やかな坂道を指さした。
歩き出してしばらくすると、大きな荷物を持った若い男が追い付いてきた。
「こんにちは！ツアー参加者ですよね。よかったらご一緒しましょう」
みなわの返事も待たずに並んで歩き始めた。
「僕はジェームス。ジムと呼んでください」
軽薄そうな顔を見ながら、みなわはあいまいに笑って見せた。
「キキ、キキ（こんなバカそうなやつ、相手になるな）」
その時、後ろから大きな声がした。
「やあ！こんにちは！久しぶりに違う人に会えた！」
みなわが振り返ると、そこには笑顔がまぶしい輝く黒い瞳の青年が立っていた。
「あ、あの…よろしく」
「こちらこそ、よろしく！僕はクレオン」
差し出された手を握り返したみなわはほほを赤らめた。
三人は、足取りも軽く坂道を上る。
しゃべるのはもっぱらジムで、彼には幸運の女神がついているらしい。
その女神は、カメレオンだとジムは得意げに話す。
危機に陥ったり、時間切れしそうになるたびに、二匹のカメレオンに姿を変えた女神がやってきて、彼を救ってくれたというのだ。
胡散臭げにその話を聞きながら、みなわとクレオンは時々視線を合わせ微笑んだ。

その城は、青空の下にありながら黒々と聳え立っていた。
「ここか～」
三人はそれぞれの感想を胸に、城の入り口に立った。
重くきしりながら扉が開き、赤いカーペットの上に招きいれられた三人は、使用人らい制服の男たちに導かれてそれぞれの部屋に入った。
「パーティーは七時に始まります。お迎えに参りますので、盛装してお待ちください」
男が出ていくと、
「とんだところで役に立つわ」
と、みなわは独り言を言いながら、パリで買ったドレスに着替えた。
「キキ、キキキ（俺はちょっと見てくる）」
ピーちゃんがドアから出ていくと、入れ違いにクレオンがやってきた。
「パーティーのエスコートは僕にさせていただけますか？」
「も、もちろん！」
みなわは、クレオンを部屋に入れて、椅子をすすめた。
「みなわさんは、どんな『ここにあってはいけないもの』を手に入れられたんですか？」
「いろいろ。一番へんなのは」
みなわが視線を、ぬいぐるみと帽子に走らせ、最後に大きな袋に入れたタコのところでとめた。
「あれかな」
「見てもいいですか」
「どうぞ」
クレオンが、袋を開けた。
彼の目が一瞬怪しく光ったが、背後のみなわには見えなかった。
迎えがやってきて、クレオンに手を取られたみなわは、パーティー会場へと部屋を後にした。
残されたアルとリゲルは顔を見合わせて、ふるふると首を振った。
大きなオオカミに戻ったアルが何とかドアを開け、２匹はピーちゃんを探しに迷路のような城の廊下を走った。