Nicotto Town


天使の棲む街


夕暮れラジオ体操


「カード、落ちてるよ」

自転車のブレーキの音と共にそんな声が頭上から響いた。

ラジオ体操の時に来る近所の大学生だ。

自分自身はもうラジオ体操に来る必要なんかないはずなのだが

町内会のボランティアとかなんとかで、

ラジオ体操のカードに出席ハンコを押す係をやっているのだ。

折角の夏休みに俺達みたいなガキんちょ相手にご苦労な事だ。

俺だったら小学生終わったら夏休みにラジオ体操なんてだるくてやってられない。

確か名前は…ええと、何だったかな?と、考えていると

はい、って感じでカードを手渡された。

落としたわけじゃなく、単に遊ぶのに邪魔で置きっぱなしにしてただけなんだけど

わざわざ否定するのも憚られたので、黙ってそれを受け取った。

カードを渡してくれた方とは逆の手に

アイスキャンディが握られているのが視界に入ると

歩き(自転車?)アイスを見咎められたのだと判断したのか

「何だか急に無性にアイスが食べたくなってコンビニ行って来たんだ~」

と、ちょっとバツが悪そうに言い訳した。

「あ、もう1本あるからあげるよ!!」

多分、共犯者にしたいのだろう。

「いいよ…知らない人から物貰っちゃいけないって先生から言われてるから」

と、小学生ならではの言い訳をして丁重に断ったのだが

「いいからいいから!!あっ、それとも食べかけの方がいい?」

「いや、だからいい…って!?」

唐突な申し出に思わず返答に詰まると

「な~んてね、嘘だよ♪」

そう言って、自分が手を付けてなかった方のアイスキャンディを

コンビニの袋ごと俺に押し付けてそのまま自転車で走り去っていった。

「じゃーね、明日また学校の校庭で♪明日は遅刻してこないでね…君」

一体何だったんだろう…?と、呆然としながら

夕闇に消えていくその後ろ姿を見送った。

あれ?そう言えば何でアイツは俺の名前知ってたんだろう?

同じ地区のラジオ体操に出てるとは言え、結構な人数居るのにな。

ああ、ラジオ体操カードの名前欄でも見たのかな?

うん、そうだ。そうに違いない。

まあ、そんなことはどっちでもいいことだ。

とりあえずはこの溶けかけたアイスを何とかしないと…。




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