小説です。チビとオオカミ3
- カテゴリ:小説/詩
- 2012/09/18 23:13:49
サラはオオカミの姿で荒野を歩きながら、自分はどこへ行くのだろう?
と、考えた。姿の変わり果てた家族と出会い、自分は一体どこへ行くのか?
帰りたい…。リルルのところへ…。
リルルは私を受け入れてくれるだろうか?
わからない。
リルルは光の杖、ガイアの所持者…。私が世界を滅ぼす意志を見せた時は私を滅ぼす使命があるはず…。
道が違いすぎたのかしら…。
じゃあ、どうして「手紙を書く」だなんて…。
リルルの純粋な気持ちが胸を痛めた。
わからない。
鬼を使って、何かを滅ぼしたりはしない。鬼を使って奪うことに囚われてしまっては…。
「鬼」になってしまう。
鬼は必ず鬼に狩られる…。それが世界の定められた決まりであるかのように…。
いつからこの世界は修羅道という名の世界に落ちてしまったのか。
この因果から抜け出せる道理は無いのだろうか。
いや…そのための「古代兵器」ではなかったか?この絶えぬことの無い戦いを終わらせるために各国で協力して「古代遺跡より兵器」を発見し、大陸全土を統一するという大目標はどこへ行ったのか。遺跡より発掘された「兵器」は「人」を選んだ。使う者を自ら選んだ。ゆえに選ばれた者は「われこそは王である」と、国を立ち上げた。
発掘された古代兵器の数だけ国がある。鬼がいる。
修羅道の再来だ。
リルル…私はあなたを信じたい。だが…私が殺した父と同じように…私も「この世界に絶望している」のだ。
こんな世界は無くなってしまった方がいい。と、本気で思っているのだ。
そんな私と…「光の杖、ガイア」を持つあなたとでは釣り合いが取れない。
あなたの力は「世界の創造」…。私と真逆。
私はあなたを愛おしく思う。だが、私にはあなたに愛してもらう資格が無い。
ああ、私はどうすればいいのだ…。
黒い瞳の中に赤い目を光らせる女性の服を着た骸骨の鬼がサラの頭をなでた。
「お母様……」サラは骸骨の鬼に抱きつき、泣き出した。
異様な光景だ。黒毛のオオカミが女性の服を着た骸骨の鬼に抱きついている。いや、覆いかぶさっているのだろうか。
ゆえに幻影であろう…女性の服を着た骸骨の鬼のドクロの顔に肉がつき、長い黒髪が風に揺れた。肉の付いたその表情はとても寂しげで…だが、とても優しい…いや、優しさを匂わせる表情だった。
幻影には違いない。
幻影には違いないが…少なくともサラにはそう見えていた。感じていた。
骸骨の鬼に…母の優しさを。
そこへうさぎの飛脚がやってきた。
リルルさんからの伝言です。
オーガがやってきた。君の力が必要だ。ニュクスの力…「滅び」の呪を発動させてくれ
どういうこと!?
「滅び」の呪の発動はそのまま世界の終わり。
それも永遠の終わり…。
それを発動させてくれだなんて…。
次のうさぎの飛脚がやってきた。
「今、ボクは死に直面している…。時間が無いんだ。ボクは大和国を守りたい…。サラ、たのむ…」
サラは何も考えず、闇の杖ニュクスに戦う意志を伝えた。
愛しい人のために戦うことを決意した。
身体が軽い。勝手に動く。
風の呪の最上級を唱え終わり、それを地面に向かって杖を振る。
そこに炎の呪を織り交ぜ、爆風によって自分を飛ばす。
風と炎の呪を交互に唱えて大和国のオーガ(巨大な鬼)を目指す。
その巨体ゆえにすぐに見つけて、辿り着くことができた。
すぐに探した。「リルルー!!いるなら返事をしてーーー」
「ここだ!」と、リルルは大きくなってオーガの振り下ろす巨大な棒を避けていた。
「ボクは今から…奴の口の中へ飛び込む!飛び込むために奴の口を開けてくれ!」
「わかったわ!」
どういうわけかリルルの考えていることが伝わってきた。
おもしろい!と、不謹慎にも感じてしまった。
サラは風の呪を唱えてから炎の呪を織り交ぜる。
それはリルルのような合成魔法では無いため威力は落ちる。
威力は落ちるが…オーガの口を開かせるには十分だった。
そこにリルルはタイミングを合わせて、合成魔法をぶち当てる。
リルルはオーガの口の中へ落ちて行った。
サラはあとは待つだけと…思い、印を見逃すまいと。
オーガと適度に距離を取って逃げた。
手も足も出なかったオーガにもうすぐ勝てる。
オーガの胃袋の辺りに円形の幾何学模様の魔方陣が浮かびあがる。
合図だ。あれは「始まり」の呪。
サラは「始まり」の呪に向けて「滅び」の呪を唱え発動させた。
サラの杖から闇よりもなお暗き闇の衣が放たれる。
すべての終わりをあたえる闇…。
その先には金色に輝く黄金の光が待っていた。
二つの莫大なエネルギーがぶつかり合い相殺されるそのエネルギーで、どの魔法を受けても傷一つ負わなかったオーガの身体は灰となりて朽ちた。
その灰の中から「チビ」が現れた。
オオカミの姿に自分は戻っている。
サラは何も言わずほっぺをなめた。
「おかえり、サラ」
ただの一言がサラの赤い目から涙をこぼさせた。
チビは…リルルはただサラを抱きしめた。
絆は消えないのかなあ。
優しいお話、ありがとう
チビとオオカミが一緒にいられて 良かった^^