Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


チビとオオカミ オーク襲来



国境線に迫るオークの数は万を超えていた。

ありえない数だ。

今までなら絶望さえ覚えるところだ。

今は違う。

蹴散らせる。不思議とそう感じた。

地平線すべてを埋め尽くしているオークの群れ。

豚の顔をした魔物。

魔物らしく赤い目を光らせて、手には巨大な斧を持ち、前だけを睨んで歩いて来ている。

サラがオオカミから人の姿に戻る。

ボクも元の身長に戻り、ゆっくりと歩いて行く。

ボクは風の呪を唱えて、壁を作る。

取り逃しても、進ませないために。

「リルル?そんな壁はオークたちには簡単に壊されるわ・・・どうして?」

「あのオークたちには無理だよ。サラ、今を感じるんだ。不自然なところに気づくはずだよ」

「・・・・・・。あっ。魔力がとても微弱だわ。どういうこと?」

「倍加の魔方陣を使用しているんだと思う。倍加の魔方陣は同じ魔力で十の魔物を呼び出せる変わりに一固体の魔力はどうしても弱くなる。やることは一つだ」

「私たちがすることは戦うことじゃない。杖を持っている人間を降伏させればいいのね」

「さすが。調理はボクに任せてもらえるかな」

「いいわよ。私は術者(杖を持っている者)を探して拘束するわ」

「うん。任せた」

サラは風の呪を唱えて飛び立って行く。ボクも風の呪を唱えてオークたちの部隊の中央付近へ飛んだ。

 ゆっくりと、着地する。まさかこちらから来るとは考えていなかったのか、オークたちの動きは止まったままだ。

 術者の命令を待っているのだろう。

 ボクは魔方陣を組んで行く。「始まりの呪」を唱えるために。

 「始まりの呪」は「滅びの呪」を止めるためだけの呪ではない。

 古代兵器の支配権を奪う。

 それが「始まりの呪」の隠された力だ。

 
 オークたちが攻撃を開始してきた。

 サラが、術者を見つけたみたいだ。命令系統がうまく伝達できていないのか、同士討ちを始めている。

 命令内容は「動く者を攻撃せよ」きっとそんなところだろう?

 ボクの存在はまだ向こうに知られていない。

 ボクの魔方陣を組む、手の動きに反応するオークはいるだろうか?

 ふふ。いるじゃないか。そうそう。そうこなくてはな。

 巨大な斧が右、左と交互に振り下ろされる。殺意がある。

 確実にこちらの息の根を止めようとしている。

 だが、一振りの動作が大きい。

 姉さんとの格闘に比べたら、オークたちの攻撃を避け続けることは何の苦でもない。

 腹が立っているのか、味方ごと横薙ぎに一閃してくるオークもいる。

 声無き声は風を伝わり、大地を伝わり、ボクの目、耳に伝わって。

 ボクはそれを今と感じ。相手の動きを余すことなく、把握していく。

 魔方陣は完成した。

 大地に展開させて「始まりの呪」を唱える。

 オークたちの支配権がボクに入れ替わった。

 ボクはオークたちに命令を出す。

 「召喚者のところへ案内せよ」

 一匹のオークが巨大な斧を振り下ろす。

 その振り下ろした斧の両脇にオークたちが整列して行く。

 道ができる。

 オークたちに囲まれた道をボクはゆっくりと進んだ。

 サラが召喚者を捕まえていた。

 赤髪の髪をした少年がサラの足の下からボクを睨んでいる。

「どうしてここへ来た?」

「拾ってくれたお師様に言われたからだ。この国を落とせば世界を手にすることができるって」

「なるほど。あながち間違っていない。そのお師様とは誰だ??」

「ニュクス…そう呼ばれていた。オレだってあの人の名前は知らない。ただこの杖を貰っただけだ。」

「世界を手にしてどうするつもりだったんだ?」

「もう誰も踏みつけさせはしない。この古代兵器さえあればオレは王になれる」

「でも…君は負けた。兵器使いに倍加の魔方陣を使用するのは良くない。どちらにせよ…君の命はボクたちに握られている」そう言ってボクは手を上に上げる。

オークがそれと同時に斧を振り上げる。サラの代わりにオークが少年を押さえつける。

「・・・待ってくれ。こんなの嫌だ、殺さないでくれ」

「君がしようとしていたことはこういうことだ。力を手にして国を奪っても駄目さ。それに国も命も奪うものじゃない。支えるものだ…もう一度聞く。君は何を手に入れたい?」

「・・・弱い者を守れる強さだ!」

「ん。いい答えだ。今日からボクの部下にしてやる・・・それじゃあな」と、ボクは背を向けた。オークたちは召喚時間が途切れたのか次々と消えて行く。
 ボクの身長は元へ戻り、チビになる。

 サラもオオカミに戻って、ボクの横に並んで歩きだした。

「おい、待ってくれよう」と、赤髪の少年は走ってくる。

「名前、聞いてなかったな?なんて名だ?」

「マリクだ。あんたたちの名前だって聞いてないぞ」

「ボクはリルル。こっちのオオカミはサラだ。よろしくな」

「というか・・・なんでチビになるんだ。それにそっちの姉ちゃんはオオカミになるし」

「古代兵器には姿を強制的に変化させる兵器もあるってことさ」

「なあ」

「何だ?」

「オレはあんたたちを利用するだけかもしれないぜ・・・オレは都合が悪くなったら裏切るかもしれないぜ」

「弱者を守る強さを手に入れたいんだろう?」

「ああ」

「動機なんてどうだっていい。明日から兵器の使い方から戦い方までみっちり教えてやるさ。お前みたいな下っ端を送り込んでこちらの力量を測っている「ニュクス」を倒すためにもな」

「何だって?オレはじゃあ奴らに利用されたのか?」

「そういうことだ」

「オレは作戦も全部言われたとおりにやっただけ・・・。そうか、捨て駒だったのか」

「そう気落ちするな。今日からはボクの部下だ」

「わかった。チビの兄ちゃん、よろしくな」

「ああ」と、ボクは返事をして姉さんたちの待つ家へ向かった。

大好きな「目玉焼き」があることを祈って。




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