Nicotto Town



初夢の続きは (2)



屈強な男は熱っぽく語った

運は自らの手で掴み取るものだと……

妖艶な女は瞳を潤ませ言った

運はその身に引き寄せるものだと……

老婆はしゃがれた声で不敵に笑った

運は他者から掠め取るものだと……

ならば幸運の在処はどこにあるというのだろうか?



『初夢の続きは』 scene2 『在処』




「待たせるわね」

ゆっくりと顔を上げた後、彼女の放った言葉は意外すぎるものだった。

「え?」

悟は予想外のリアクションに、頭の中は?で埋めつくされた。

「あれ? 約束なんてしてたっけ?」

ようやく搾り出せた声に、松梨は反応を示さなかった。

二人の間を、冷たい風が幾度か流れた。

少しの沈黙の後、ようやく松梨は口を開いた。

「…冗談よ」

(あれ?松梨って冗談言うタイプだったか?)

悟は、記憶の中の彼女を辿っていた。




霞 松梨がこの街に引っ越して来たのは、中学3年 それも受験寸前のことだった。

この街の高校を受験したい、という本人の希望で親元を離れ

祖父母のいるこの街に越してきたのだと言う話だ。

この時期の転校生が、クラスに溶け込むのは難しいと思われていたのだが

なぜか梅子とだけは、すぐに打ち解けた。

そのため梅子の幼馴染である悟とも顔見知りとなり

いつのまにか三人一緒に行動をするようになっていった。

そして別段示し合わせたわけではないが、三人共が同じ高校に進学した。

故に悟と松梨は、決して知らない間柄ではなかったのだが

悟は、なぜか松梨に距離をおかれているように感じていた。




(松梨の冗談……。記憶にないよな?)

なぜだか固まってしまっている悟を前に、改めて松梨は口を開いた。

「間宮君奇遇ね、どうしたの?」

「奇遇も何も絶対会うだろ? お互い梅子に誘われて参拝に来たんだし」

「あら、知ってたの? …意地が悪い」

松梨はそう言うと少し下を向き

「そんなことはないわ、この世の中絶対なんて言い切れる物はないでしょ……?」

ボソリとそうつぶいた。

何か意図があってそんなことを言ったのだろうか?

悟がその意図を読み解こうと考えていると

松梨は門柱に預けていた体重を反動に利用して、体を起こして悟と向き合った。

「っと…」

が反動が強すぎたのか寒さで体が冷え切っていたのか、

体は制御を失い悟へもたれかかった。

あわてて悟は、松梨を受け止める。

「あ、ごめん」

「ううん こっちこそごめんね」

恥ずかしさからかなんとなく、そのまま2人は固まってしまった。

石化の呪縛から解き放ったのは、遥か後ろから聞こえる声だった。

「さ~と~る~! 松梨に何してんだ~!!」

梅子が、ものすごい形相で駆け寄ってきた。

「おいおい、何もしてないだろ? 松梨が転びそうになったから支えただけだって」

「どうかな~?」

梅子はいぶかしげな目つきで、しげしげと悟を見つめる。

「ホントだって~なぁ松梨?」

悟は松梨に助け舟を求めた。

ナベを含めた3人の視線が一斉に松梨に注がれる。

「…え~と。 どうだったかしら?」

「…さて、お参り、お参り」

曖昧な返事に悟は一人歩き出すしかなかった。



「はぁ~寒うぅ…」

吹き抜けていく冷たい風に、梅子がキュッと身を縮める。

新年のことを新春なんていうけれど、どう考えても真冬のどまん中

芯まで冷えそうな寒さの中、梅子がさらに続けた。

「やっぱり家にいればよかった~」

「お前の言いたいことはわかるが、コレそもそもお前の企画じゃないのか?」

「まぁ、そうなんだけど~」

「ナベはあれだよな? 巫女さん見たさ…」

ナベは素早く悟の後ろに周り、口を塞ぎにかかった。

「お前は、突然何を言い出すんだ! 日本人としての務めだぞ、初詣は~あははは」

4人並んでとりとめの無い話をしながら進んでいくと、すぐに賽銭箱の前まで到着した。

「何お願いしたの?」

梅子は悟の顔を覗き込んで聞いてきた。

「こういうのは、言ったら叶わんもんだろ?」

「チッ、バレてたか」

「お前な…」

梅子は油断も隙もなかった。



「みんなおみくじは引くんだろ?」

参拝が終わるとナベが声を上げた。

「今年最初の運試しって奴ね! これは気合い入れてかないと」

梅子も呼応するように、テンションをあげていく

悟は振り返り松梨の様子をうかがった。

「松梨も引くんだろ?」

「そうねぇ」

松梨は少し思案している素振りを見せた後、笑顔で答えた。

「もちろん」




「やった~大吉ぃ~」

最初に声をあげたのは梅子だった。

「ほれほれ」

嬉しそうに、おみくじを悟の目の前で振ってみせる。

「はいはい よ~ござんしたね」

(まったく、いつまで経ってもガキみたいな奴だな)

悟は興味なさげに相槌を打った。

その反応にやや不満そうな梅子だったが、すぐに松梨の方に駆け寄って行った。

「松梨はどうだった?」

「あ、私も」

「お~おめでとう!」

松梨も大吉だったようで、梅子とハイタッチしている。

「お~俺も!」

(ナンダト! ナベまでも…)

途端に悟に焦りが生じた。

「ま、正月のおみくじってのはさ、大吉が多めに入ってるものなんだよ!」

悟は自らを鼓舞させるように、そう言うとおみくじを開けた。

悟のおみくじに集まる4人の視線……。

「…小吉だ…と……!?」

「あ~ははは」

梅子が笑い出す。

「多めに入ってるって言ったの誰でしたっけ?」

「さてと…ウォーミングアップはこれくらいでいいか」

悟は回れ右をするが、その腕を梅子に掴まれ止った。

「ん?」

「悟! お金もったいないよ。ほら交換してあげるから」

「え?いいのか? や~持つべきものは幼馴染だな」

子供っぽく喜ぶと、悟は梅子とおみくじを交換した。

瀬戸神社のおみくじは、香りつきの栞になっている。

さして読書に興味のない悟だが、大吉の栞を手にして本当に喜んだ。

梅子もナベもそんな悟を見て、微笑んでいた。

しかしただ一人松梨だけが、複雑な表情を浮かべていた。

アバター
2013/10/06 13:40
松梨の複雑な表情は何を意味しているのか、次が気になります。
アバター
2013/01/11 19:28
こんばんは~

ふむ・・・
なかなか・・・
ドライアイなのでまた今度~
お邪魔します~
アバター
2013/01/10 17:29
続きを楽しみにしてるね♪♬。
アバター
2013/01/09 22:09
待つ、次号。



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