Nicotto Town



初夢の続きは (5)


人は、それぞれの想いを抱いて誰かを見つめている。

その瞳の先に愛しい者を捉える者。

その瞳に己が未来を映す者。

その瞳の奥に憎悪の炎を宿す者。

それぞれが、それぞれの事情を抱いて未来を見つめている。

その者の瞳に映る世界は……。




『初夢の続きは』 scene5 『斜陽』




斜陽が白亜の校舎に紅を散りばめ始めていた。

空の焔が、光彩を刻一刻と変じて見せ、

あたかも肉眼で時を見ているかのようなそんな夕刻…。

オレンジの西日を浴び、教室で一人突っ伏していた悟に梅子は声を掛けた。

「悟、何してるの?」

「ん?」

聞きなれた声に悟は飛び起き、

突然現れた梅子をキョトンとした目で見つめた。

「ああ 梅子? で夢の隠し場所は?」

「え…」

その言葉に梅子は反応し、一瞬険しい表情を見せた。

しかしすぐに柔和な顔に戻ると大声を上げた。

「あんたねぇ、なに寝ぼけてるのよ!」

梅子のそんな言葉を聞き流しつつ悟は前の校舎の屋上を見たが、

そこには松梨の姿はすでになかった。

「あれ? 松梨居なかったか?」

「ん? 見てないけど」

「そっか」

悟は、そのまましばらく屋上を見つめていた。

するとぼんやりと松梨の幻影が浮かんだような気がした。

「何ぼーっとしてるの? まだ寝ぼけてるの? ほら帰るよ帰るよ」

「ああ、そうだな」

悟は素早く鞄を手に取ると出口へ駆け出し

「ほら梅子何してんだよ、帰ろうぜ」

と逆に梅子を急かして教室を後にした。




校門を出たところで、梅子は悟に声を掛けた。

「ねぇ悟、手をつないで帰ろうか?」

「はぁ?何で?」

「そろそろ使ってあげようと、思ってさ」

「何の話だよ?」

梅子はパウチされた小さな券を悟の前でブラブラさせた。

そこには『梅子専用、悟なんでも言うこと聞く券』と書いてあった。

「まだ持ってるのかよそれ!」

「あったり前でしょ!」

梅子は少し得意げに鼻を鳴らした。

「それ小学生の頃のプレゼントだろ? そろそろ期限切れじゃないの?」

「期限なんて書いてなかったし、まだ有効よね?」

「わかったわかった」

悟は早々に白旗をあげると、梅子の手をぶっきらぼうに取ると歩き出した。

「あんた赤くなってない?」

「なんでだよ」

途端に悟の顔色は益々赤くなる。

「このエロガキ」

「あのなぁ…」

梅子が突っ込み、悟が反撃してくる。

その流れがいかにも自然で、当たり前のように繰り返される。

それはずっと昔から、まるで摂理のように続いてきた。

梅子は、こんな優しい時間がずっと続けばいいのにと思いながら、海沿いの道を歩いていた。

「見ろよ。 夕日が沈むぞ」

悟は足を止めて水平線を指差した

指先の夕日を見ながら、梅子は真剣な顔で少々不思議な物言いをした。

「ううん。 夕日は沈まないよ、あれは海に溶けているの」

「はぁ? 何言ってるの?」

それを聞いて悟は笑い出した。

梅子も釣られて笑い出した。

そうして消え行く夕日を横目に、二人はまた歩き出した。




曲がり角まで続いた左手のぬくもりが、ふと消えて行くのを梅子は感じた。

あわてて左手に視線をやると

悟の指が、ゆっくりと離れていくのが見えた。

まるでスローモーションのように繋がれた指と指が離れていく。

絡まっていた糸がほどけていくように…。

(もう、終わりかぁ)

繋がれていた悟の右手は離れ、やがて左右へと振られた。

「じゃあ、また明日な」 

「うん、また明日ね」

こんな単純な言葉のやりとりが、痛いくらい梅子の胸を締め付けていた。

梅子も大きく手を振って悟を見送った。

夕日は今にも海の世界を照らしに行きそうで

茜色の空は、すぐに夜の帳を下ろしてしまいそうだった。

朱に染まりだんだん小さくなる背中を見つめていると

会いたい気持ちがすぐに梅子を苦しくした。

(また今夜も、眠れなかったりするんだろうな)

そんなことを思っていると、

悟の後ろ姿が、ゆっくりと振り向いて、大きく手を振った。

「バイバーイ」

少し嬉しい不意打ちに、梅子も小さく手を振り返して 

「バイバイ」

微笑んで、そうつぶやいた。

梅子は見えなくなった背中に背を向け、ゆっくり歩き出した。

しかしすぐに足を止め、鞄のキーホルダーを手にした。

(しかし、本当にいつ取りに来るつもりなのかしら)

小さな小瓶のキーホルダー、その瓶の中にはリングの様な物が入っていた。

(悟、大好きだよ いつか本当の…)

暮色掛かった空を見上げ、梅子は歩みの速度を上げた。



その夜、優は自室の勉強机に座り頬杖を付きながら鏡に向かってつぶやいていた。

「はぁ~やっぱり運命なのかな~」

広げた占いの本には、たくさんの書き込みがしてあった。

(やっぱり、相性バッチリ 悟先輩以上の相手なんて考えられないよね)

一年前のあの日、そして先日の入学ガイダンスの日

2つの出会いは運命という言葉を納得させるには十分であった。

「それに、なんだかカッコイイし」

友達に隠し撮りしてもらった悟の写真が入った写真立てを両手で持ち上げた。

持ち上げては置く、持ち上げては置く、そんな動作を何度か繰り返すと

う~~~んと大きく伸びをした。

すると階下から母親の声がした。

「優ちゃん~お風呂入っちゃいなさい」

「は~い」

椅子から立ち上がり写真立ての上部に指を掛けた。

「大好きだよ、先輩」

写真立てを手前に倒し、優は部屋を出た。

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2013/01/12 20:46
あ、、このお話って、ずっと続いてたの?
聞き覚えのある名前の登場人物だけど・・・



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