Nicotto Town



初夢の続きは (6)

歩いていた

鬱蒼と木々が生い茂る森の中を

光と影が織り成す迷路のような道を

どれだけ歩いたのだろう

頬を撫でる風は、やがて水気を孕み

気付くと小さな水辺へと辿り着いていた

周りは、霧が立ち込めていて良く見えなかった

じっと目を凝らして向こう岸を見ようとしていると

霧は徐々に晴れ、一人の女性の姿が浮かび上がってきた

驚くべきことに女性は水の上に立っていた

そしてその女性は優によく似ていた

浮世離れした光景に少々呆気に取られて見とれていると

女性は、ゆっくりと口を開いた

「貴方の探しているのは、

 遠い昔に失くしてしまった銀の斧? 

 それともこれまでずっと傍らに置いていた銀の斧? 

 そうでなければ先ほどまで握っていた銀の斧?」

「?」

返答に窮してしまった

この女性は何を言ってるのだろうか?

どれも銀の斧、だったらどれでも問題はないのだろうか?

いや違う、どれも謂れが違うのだから、きっと別の物

どれかを選ぶということが、何か得体の知れない力を及ぼす

そんな気がしていた。

気付くと、また、周囲は霧に覆われていた

… … …

… …




『初夢の続きは』 scene6 『告白』



「うわ!」

どうやら、また夢を見ていたようだ。

しかしこれまで見てきた夢とは何かが違う気がした。

「やけにリアルな夢だったなぁ」

自分で言っておいてなんだが

我ながら妙なことを口走っていると思った。

水の上に女性が浮かんでいて、その女性が優。

これのどこがリアルなのだろうか?

光景としては前に覚えていた夢の方がよほどリアルなはずだ。

けれど、これをリアルと捉えてしまう自分。

奇妙な違和感が、一瞬脳裏を掠めた。

脳内を整理しようと、一呼吸付く。

違和感の正体…。 ないものをあると感じる。 0を1と錯覚する。

やっぱりさっぱりわからない。

やがて差し迫ったリアルがそいつをかき消してしまった。

「ヤバイ、遅刻だ!」

悟はずいぶんと寝過ごしてしまっていた。



学校へ向かって走る途中、思い出していたのは優のことだった。

水辺に立っていた人が似ていたと言うのもあるが

最近は、よく優と登校していたのだ。

桜並木で優が待っていて、そこから合流してというのがパターンだった。

しかし今朝は桜並木まで回っていく余裕は無さそうだった。

(まあさすがにこの時間、待ってはいないだろうな)

悟は桜並木へとは行かず、まっすぐに校門を目指した。

だが息を切らしてたどり着いた校門は無情にも閉じており、

腕組みをした風紀委員と生活指導の先生が少し怒気をはらんだ目で見つめていた。




昼休み優がすこぶる不満そうな表情で現れた。

「先輩! なんで私を置いていくんですか?」

「いやいや、遅刻しそうだったんだよ」

「私だって遅刻しそうになっちゃいましたよ!」

来なかった事へか、遅刻したからか ご機嫌ナナメな優に悟は即座に謝ることにした。

「本当に、ごめん」

「まあ、いいですけど」

(もしかして機嫌が直ってきた?)

悟は淡い期待を込めてそう考えることにした。

「あれ~でも コホッ コホコホコホ」

優は何かを言いかけたが急に咳き込んだ。

そのやけに重そうな咳に悟は少し戸惑ったが、すぐに背中をさすってやった。

「大丈夫か? 風邪でも引いたんじゃないか?」

「へいきです…ちょっと咳がでただけですから」

「お詫びと言っちゃなんだけど、放課後にマックでも奢るよ」

「本当ですか?」

「だから元気だせよ!」

「はい」

元気よく返事をすると、優は上機嫌でクラスへ帰っていった。




(まったく混み過ぎだよな…)

悟はトレイを抱えたまま、席を取っているはずの優の姿を探した。

優は深く椅子に腰掛け、少し眠ったようにしていた。

トレイをテーブルに乗せ優の顔を覗き込むと

顔面は蒼白で苦しそうな荒い呼吸をくり返していた。

「優ちゃん? どうしたんだ 大丈夫か?」

悟は慌てて優を抱え起こした。

その体は熱を帯びていて、驚くほど熱かった。

(やっぱり、風邪を? なんで気付かなかったんだ!)

悟に起こされると優は虚ろな目をしたまま

「あ、先輩…」

と力なく言った。

「なんで倒れるまで我慢するんだよ。具合悪いなら帰って…」

悟の言葉を優の言葉が遮った。

「何言ってるんですか? ちょっと立ちくらみがして転んじゃっただけですよ」

優は、ゆっくりと首を横に振った。

この熱い体はそれはウソであることを正直に語っていた。

こんな状態になってまで、何故こうも強がる?

悟には、わからなかった。

「家まで、送るから帰ろう」

悟は優を抱えあげようとしたが、優は椅子にしがみついてそれを拒絶した。

「…イヤ」

「?」

よくみると、優の瞳は濡れていた。

「ダメなんです、今日はまだ帰れないんです」

「どうして?」

こんな状態で、まだ留まろうとする優。

悟には、本当に意味がわからず頭は『?』で埋め尽くされていた。

「どうしても、今日先輩に伝えないといけないことがあるんです」

優は、声を振り絞るように声をあげた。

「それは?」

今にも倒れそうな優を見て急かす様に次の言葉を語気を強め求めた。

「それは…」

少し口ごもりながら、優は立ち上がり

「私を先輩の彼女にしてください!」

そういって深々と頭を下げた。

「え?」

咄嗟の出来事、どんな顔をしたのだろうか?

少なくとも笑って 「いいよ」とは言ってやれなかった。

そんな表情を悟られたのだろうか?

「…そっか」

そういうと、優はまるで糸の切れた人形のように椅子に倒れこんでしまった。

意識が朦朧としているのだろうか?

悟の呼びかけに答えることもなかった。

「ったく…」

悟は優の体を抱きかかえると、彼女の家へと急いだ。

アバター
2013/10/08 21:55
今日は(5)と(6)を読みました。
続きは後日に。

次が気になる展開です。
アバター
2013/01/17 20:47
こんばんは^^

おもしろいです~
楽しみですが今日はここまで~^^
アバター
2013/01/14 17:00
やっぱり、読み返さないと覚えていないものだね。
どういう展開で続いて行くのか楽しみにしてます^^。



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