Nicotto Town



初夢の続きは (11)

道に迷う時、

人はふたつの道を選ばなければならない

今歩いてきた道を戻るのか

正しい道を求めてさらに進むのか

そっと歩幅をあわせて、歩いてきた

何度も夢の中で、出会っていた

繋いでいた手は、強く強く握られていた

上げられた右手は、いつも出口を指していた

空は時とともに、色を変えてゆく

夕闇が迫るなら時間はあまり残されていない

過去と現在が邂逅したとき

ふたつの道は明瞭に浮かぶ

うたかたの夢に沈んだ記憶

うつつかの雫に歪んだ記憶





『初夢の続きは』 scene11 『邂逅』





「ちょっと止めなって!」

パンを抱え戻ってきた友人が少しヒステリックな声をあげ二人の間に割って入った。

それから少し遅れて悟も到着した。

「おいおい、二人とも何してるんだよ?」

悟の声を聞くと優はそちらに顔を向け、一礼すると走り去ってしまった。

その背中を呆然と見送ると、残された梅子に詰問した。

「一体どうしたって言うんだよ?」

「知らないわよ! あの子が突然絡んで来たんだから」

梅子は、お尻の砂を掃いながら立ち上がった。

「何言われたんだ?」

「あんたには、関係ないことよ」

梅子は、そっぽを向いたまま、友人と一言二言会話を交わすと

「じゃ私、行くね」

といい残し、友達と連れ立って行ってしまった。

悟には、全く以って何がなんだかわからないままだった。



放課後、悟は梅子と話をしなければならないと思った。

昼のやり取りがどうしても自分が無関係だと思えなかったからだ。

HRが終わり梅子の姿を探したが、すでに忽然と消えてしまっていた。

(アレ?どこ行った?)

仕方なく校舎をアチコチ探したが、見つけ出すことは出来なかった。

(あとは、屋上位か…)



屋上のドアを開けると、突然強い風が吹き込んできた。

校舎を走り回って火照った体には、心地よく感じた。

屋上は落ち行く夕日に赤く染められ、その光景は心の奥底に少し響いた。

辺りを見渡すと、短い髪の女子生徒が1人フェンス際に立って外を見ていた。

悟は、彼女の隣まで歩いて行き声を掛けた。

「ここにいたのか。梅子」

梅子は上体を軽くひねりこちらを向くと、かすかに微笑んだ。

「何してるんだ?」

悟は梅子の視線の先を見つめた。

「綺麗だな~って」

「ああ、」

「こんな夕日の中、よく一緒に帰ったよね」

「そうだな ま、ガキの頃の話だ」

「へ~その頃の事、ちゃんと覚えてるんだ~偉い偉い」

「馬鹿にするなって! ちゃんと覚えているさ」

「……じゃあさ、もっと昔のことは?」

「もっと昔ね……」




悟は夕日を見ながら追憶を始めた。

すぐに記憶が、鮮明とはいえないが戻ってくる。

だがある部分の記憶だけが、完全に欠落していることに悟は気づく。

いや、欠落しているのとは違った感覚。

何かに蓋をされているという感覚に近い。

そこに何かがあることはわかっているのだが、思い出すことが出来ない。

そんな記憶の存在に悟は、苛立ちを覚えた。


「え……なんだよ、これ?」

悟は血の気が、スーッと引いていくような感覚を覚えた。

そして軽いパニック状態へと陥った。

ついには立っていられなくなり、その場にうずくまる。

そんな悟を後ろから優しく抱きしめたのは他でもない梅子だった。

すると先ほどまでのパニックは嘘のように収まった。

しかし不可解さと一種の気持ち悪さは、未だにモヤモヤと頭の中に渦巻いている。

梅子は少し悲しげに言った。





「いいの悟…。思い出さないでね…」



「梅子、何を言ってるんだ?」



「……夢の隠し場所を教えてあげる」



梅子の夕日に溶けてしまいそうなぐらい線の細い華奢な体が、突然存在感を増した気がした。

悟は体を緊張させ固まった。 

鼓動は早くなり背筋に冷たいものが走った。

梅子は小瓶の中から指輪を取り出し、そっと悟の手のひらに置いた。

(え?)

悟は何がなんだかわからなかったが、指輪をぐっと掴んだ。

そうすると頭の中を巻き戻し再生のように映像が駆け抜けた。

(……なんだ、このイメージは?……)

断続的に繰り返す意味不明の映像を、振り払うように頭を振った。

「梅子、これは?」

悟の問いかけに返事は返ってこなかった。

いや、もう一度、梅子の声が聞こえた気がした。



「お願い、思い出さないでね……」



猛烈に流れるイメージの嵐に悟は、目を開けていることも、立っていることも

これ以上出来そうになかった。

目を瞑り、地面に腰を下ろし

(…落ち着け)

そう何度も自分に言い聞かせた。

(この映像に、覚えがない?)

最初は意味不明な映像を見せられているのだと思っていた。

しかし何度も見せられているうちに、懐かしい気分がこみ上げてきた。

「僕は、この映像を知っている…!」

そう認識した瞬間、頭の中で展開していた映像がプッツリと途切れた。




ゆっくりと目を開く

いつもの風景

いつもの校舎

いつもの屋上。

先ほどと、まったく一緒…。 では、なかった。

先ほどまでと違ったことが、ふたつあった。

ひとつは、すっかり沈んでしまった太陽。

もうひとつは、これまた消えてしまった梅子。

屋上を見回してみたがどこにもいない。

まるで初めから誰もいなかったかのように…。

だが悟の右手には指輪がしっかりと握られていた。 

「一体なんなんだよ……」




悟はぼんやりと梅子が立っていた場所を見つめた。

彼女が居た場所、そこには小さな水溜りが出来ていた。

彼女の涙で出来た小さな水溜り

夕闇に浮かんだそれは美しかった。

けれどもなぜかとても深く…どこまでも深く……。

悟は、その奥底に引き込まれそうになる錯覚を起こしていた。

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2013/01/19 14:08
蓋をされているように感じている記憶。
・・・何があるんでしょか?



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