Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


兄と妹


「兄と妹」・・・戦地から故郷へ。男は妹の待つ家へと向かった。

無精ひげをさわり、丘の上から故郷を眺める。

煙が見えた。赤い屋根の煙突から・・・エルシャのいる家だ。

エルシャも年頃だ。今年でたしか16を迎える・・・。出会っても、昔のように妹を抱きしめるのはやめよう。

オレの手はあまりにも血で汚れてしまった。

男は胸の勲章を剥ぎ取り、ポケットにしまった。

何が英雄なものか・・・人殺しが上手いだけの戦闘マシーンだ。

そうぼやいて、石を蹴る。蹴られた石は転がり、浮浪児の足に当たった。

「いてぇ、足が折れた!どうしてくれるんだ!?」と、浮浪児は叫ぶ。

まるで昔の自分に出会ったみたいで・・・思わず笑いがこみ上げた。

「笑い事じゃねえ」と、浮浪児はなおも叫ぶ。

「わるかった、これで勘弁してくれないか」と、数枚の札束を渡す。

浮浪児は金額に驚き、姿をくらました。

脳が痛んだ。殺した人間たちの叫び声がまた頭に響く。

間違い無く、地獄に堕ちている・・・。そう感じる。

死ねばきっとこいつら亡者と一緒に闇へ引きずり落とされる。

だが・・・それでいいんじゃないか?今日は莫大な富を妹に渡しに来ただけだ。

オレがこいつらの命と引き換えに手に入れたモノを・・・。

そんなモノをもらって妹は喜ぶだろうか?いや喜びはしないかもしれない。

しかし・・・妹の暮らしは楽になるはずだ。

そう信じたい。

何とは無しに・・・町を歩いた。

窓を見て、花壇を見て、行きかう人々を見て・・・歩いた。

何も湧き上がって来ない。

暗いくらい暗黒の淵にいる自分・・・。

こんな自分は誰もしあわせにできない。そう疑いが無いくらいオレの心は暗い。

角を曲がり、川の音を聞く。

あとは橋を渡れば、妹のいる家だ。

「あの~私の家に何か用ですか?それとも誰かお探しですか?」と、後ろから声を聞く。

「ハインリッヒ・ゲルダと申します。今日は赤い屋根にいる妹のエルシャに会いに来ました」と、ハインリッヒと男は名乗った。

「ええ!?兄さんなの!?」と、金髪の髪をした少女は青色の目をいっぱいに開き、驚く。

「何?…エルシャなのか?ほんとにエルシャなのか?」

「ええ、そうよ。兄さん、背伸びたね…それになんか雰囲気が怖い」

「…そうか。そうかもな。兄さん、軍人だったからな」

「うん。りっぱな軍人になるって出て行ったよね。それでなれたの?」

「ああ、今日はエルシャに渡したいモノがあってな」と、背中に担いできた荷物を降ろし、そこから二つの通帳を取り出す。

「え??通帳じゃない…。それを渡しに来たの?」

「ああ。それだけだ…」と、ハインリッヒは妹エルシャを見つめる。

「相変わらず馬鹿なところは治ってないのね…いいから、お茶でも飲んでいきなさいよ」と、エルシャは手を引っ張り、兄、ハインリッ

ヒを家に入れた。

家の中は驚くほど何も変わっていなかった。自分の部屋は自分が出て行った時のままだった。

それもホコリ一つ無く。

…どういうことだ。

ずっと掃除していたのか…いつ帰ってくるかも分からないオレのために。

涙が出そうになった。

部屋を出ると、エルシャはコーヒーを入れてくれていた。

好きな匂いだった。部下には何度言っても入れてもらえる事の無い…自分好みのコーヒーが入っていた。

「どう?」と、エルシャは聞く。

「変わってないな…ここは」と、ハインリッヒはつぶやく。

「そうでもないわ…地上げ屋が来だしたの。都市開発をするって聞かないのよ」と、妹はしかめっ面になる。

「地上げ屋?そうか…それはいつ来る?」と、ハインリッヒは鋭い目で見つめる。

「……怖いよ、兄さん」

「!?」・・・何と言うことだ。妹にまで殺気を放ってしまうとは。つくづく救いようが無い。

「すまない、エルシャ。兄さんは軍人になって…何か人間として大切なモノを失ってしまったのだ」

「……奴らはもうすぐ来る。でも大丈夫。私、いつも追い返しているから」

茶色の戸を叩く音がした。

「おい、いるのはわかっている。戸を開けろ!」

「オレが出よう」と、オレは迷うこと無く、戸を開けた。

「な!?誰………ひぃ。すんませんでした!」と、男たちはオレの姿を見た途端、逃げ出した。

怯える顔、まるで悪魔でも見るような目…。

慣れたはずだった。戦場では仲間からもそういう目で見られた。

だが、それでも心が痛むのだ。

「兄さん、泣いているのね…」と、エルシャの声を聞く。

泣いてなど…そう言おうとして頬を触った。濡れていた。

自分が泣いている事に初めて気づいた。

オレは「休むよ」と、ひと言だけ言うと自分の部屋のベッドで眠った。

夜、「痛い、いたいいたーい」と、オレに手足を潰された人間たちの声で目が覚めた。

…おそらく死ぬまでこの悪夢は続くのだ。

部屋の戸を開けて、テーブルでうたた寝をしているエルシャに触れようとして気配を感じた。

十人、いや、十八人…その中の一人は自分と同じ兵士か、または武芸者だろう。

なるほど…昼間のあいつら、かなわぬと見て人数で来たか。

オレは玄関の戸を開けて、襲撃を待った。

夜…明かりをつけずとも慣れてくると見えるものだ。待つつもりだったが…こちらから襲撃する事にした。

橋を渡り、後ろを向いて隣の奴に話して盛り上がっている男の顔面にかかと落としを食らわし、そのまま回し蹴り。

あっという間に二人だ。着地して隙があると見せて…近づいてきた男たちに裏拳と、急所突きにより倒して行く。

倒して行くと言っても気絶させる程度だ。

オレが烏合の衆に負ける道理はない。ただ一人ただならぬ気配を持つ黒い帽子を被った男を除いて。

気づけば一対一になっていた。

「お前もそうとうやるらしいな…千人殺しゲルダさんよ。だが、心配するな…今日はオレ様がお前を地獄へ送り返してやる。万人殺しのバジャル様がなぁ」と、黒い帽子の男、バジャルは得意げだ。

「オレ様の獲物はこの剣だ。お前はその拳か?さあ、かかってきな」

「いいのか?いくぞ」と、オレは動いた。

「うぎゃあああ」と、バジャルは右腕の「あった」場所を左手で抑える。

「千人殺し…一対千の戦いで生き残ってついたあだ名だ。そんな汚名はいくらでもくれてやる。オレの家族を襲うおうとした罪はその命で贖え(あがなえ)」と、オレは動いた。


「やめてーーー」と、エルシャの叫び声を聞く。


オレの拳はバジャルに当たる直前で止まった。バジャルは気絶した。

オレは…警察を呼び、冷静に対処した。地上げ屋も法によって裁かれる。

ではオレは裁かれないのか?万人どころか…数えることすらやめてしまった。

暗いくらい闇の淵…。

「兄さん!」と、エルシャの声を聞く。

「近づくな、エルシャ。オレは今でも殺人者なんだ!兵士なんだ!千人殺しと恐れられる悪鬼羅刹なんだぞ」

「兄さん!でも、兄さんは兄さんだよ」と、エルシャは叫ぶ。

「オレはお前の知っている兄さんじゃない。オレはオレは…」

「兄さんの手が…どんなに血に染まろうと。私のただ一人の兄さんよ」

「オレは変わってないか?」

「理屈っぽいところとか。そのまま。」

「オレはしあわせになってもいいのか?」

「もちろんだよ、兄さん」

「オレは殺戮者だ。お前を殺すかもしれないんだぞ」

「じゃあ、今、殺して。兄さんなら簡単でしょ」

エルシャは笑っていた。戦いは気と気のやり取りもある。

本心から笑っていた。本気でオレに殺されてもいい。と、エルシャの気がオレに伝えている。

「うがぁあああ」と、オレはコブシを握り、エルシャに向かって動いた



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2013/07/07 00:23
エルシャの気持ちが、わかるきがしました。

みんな、悪の部分はもってる。。。

わたしにも。。だから、どんなものをもってようと、お兄様はかわらないんだとおもいますよ^^

その悪さえ愛したとき、素敵なことがおこりそうですね。

コメ、ありがとうございました。やってみます^^うれしかったです



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