ベリルとシャリル3
- カテゴリ:自作小説
- 2016/02/24 22:57:05
第2話 狂人
シャリルは白い大理石の廊下を歩きながらもイライラとしている。
前を歩くラスクが笑っているせいではない。
兄を眠らせてしまった事と兄を浮遊の術を使用して連れ歩く事に。
ラスクはしゃがみこみ、花壇の1つから黄色の薔薇を1本摘みとる。
「シャリル・・・そう怒るな。ここが応接間だ。」と、ラスクが言うと白色だった大理石は黒色に変色したかのように見えた。
いや、単純に光源が無くなり、暗くなったのかもしれない。
「座れ」と、ラスクの言葉に合わせて黒い椅子がシャリルの後ろに。
シャリルは「操る」と、つぶやく。
ベリルは目を閉じたまま「兄を座らせろ」と、話し出した。
「お前は悪い奴だな・・・兄を傀儡、人形として扱うのか」
「今回は特別だ。それに兄は私のせいで壊れてしまった・・・そう、壊れたままなんだ」と、ベリルは目を閉じたままシャリルの意志を話す。
「わかった、椅子を用意しよう」と、ラスクは黒い椅子をベリルの分も用意した。
「感謝する。私の魔術を止めたお前だからこそ聞きたい事がある」と、ベリルはシャリルの意志を言う。
「何だ?兄と普通におしゃべりでもしたいのか?」と、ラスクはシャリルを見つめて話す。
「・・・兄の時間は止まったままなんだ・・・あの夜から。そして私は兄と普通に会話したい」と、ベリルの声は伝える。
「ふはははは、ほんとにそうなのか。これはお笑いだ。魔術は使えてもやはり子どもか。まあいい。なーに、簡単だ。法具を探せばいい。破壊神クラス、魔神クラス、女神クラスを封印できるほどの法具を。本来それらは神クラスのモノを封じるために使用するモノだが・・・わらわやそなたは違う。自分の力を制御するために使用する。他に聞きたい事は?」と、ラスクは言う。
「私は私を救い、兄も救う。それだけだ。法具に関する情報はどうすれば提供してくれるのだ。」と、ベリルの声は伝える。
「賢い子だ。提供するにはトレジャーハンター、アートマジックを順に習い、最終的に自分で作成してもらいたい。順序としてはまずトレジャーハンターだ。そうやって見つけてきた法具を元にアートマジックで作成する。・・・そなたはすでにアートマジックを極めている。わらわの魔術を解読できたのだからな。つまり、そなたは見つけてくればいいのだ。トレジャーハンターとして。簡単な事だろう?」と、ラスクは言う。
「理解した。それでどこから探せばいい」と、ベリルの声は伝える。
「その前にイカスミのパスタでも食べぬか?」
「兄は好きだが・・・私はそれほどでも無い。」
「そうか・・・この魔法都市を攻めようと企んでいる輩がいる。そ奴らのアジトには法具がたくさんあるはずだ。その中に伝説の法具があるかまでは確認できていないがな」と、ラスクはシャリルの目を見つめる。そしてシャリルがベリルを話させるのを手で止めさせてから目を見つめたまま「シャリル、人をこれまでどれだけ殺してきた?」
「私と兄に敵対する者は全部・・・父も含めて」
「なるほど。父を殺すところを兄に見られたか?」
「兄に食べさせた・・・父の内臓と肉を」
「は?」
「食べさせた」と、ベリルは伝える。
「まさか父を殺し、料理したというのか!」
「あなたも私を狂っていると思う方か」
「くくく、わらわは自分の事を理解しない父と母をすりつぶしてワインのように飲んでしまった・・・狂人。ずっとそう陰口を叩かれてきたが気にならなかった。くくく、まさかそなたのような同類に出会うとはな。合格だ。宝の在りかは教える、かつ、敵勢力の消滅も条件だ。できるな、シャリル」と、ラスクはシャリルを見つめる。
「その程度の事、簡単な事だ。私はシャリル。殺意を向けた父を食べた女」と、ベリルは伝える。
「それゆえに壊れたか・・・そなたの兄は。法具を手にすれば兄が元に戻る日もあるだろう。それは希望的観測かもしれぬがな。」
「希れなる望み。ゆえに希望。」と、ベリルは伝える。
「いいだろう、場所はここから南西へ100ディン(1ディン=4メートル)ハンニバルという異世界の将軍の名を名乗る盗賊団だ。滅ぼした村を根城にしている悪党であり、法具を探してくれる貴重な奴らでもある。だが、この魔法都市には足を踏み入れる事は許さん。それでそなたの出番だ。何ならそこまで転送しようか、シャリル」と、ラスクは言う。
「転送」と、シャリルはつぶやく。ベリルと一緒にシャリルは消えた
ラスクはシャリルのいた場所から目線を離せない。
「わらわの後継者と・・・希望・・・そうじゃな、これはわらわの決める事では無い。シャリルが決める事じゃ。ゆえに希望よのぉ」と、ラスクはまたおかしくなってきた。
それは仲間に出会った事なのか、理解者に出会った事なのか
いや、自分よりも狂った人間に出会った可笑しさなのか。
それともそんな人間を後継者になって欲しいと考えた自分自身への可笑しさなのか
「くくく、ふはははははは」と、ラスクは気づけば高笑いしていた。
森に囲まれた丘の上に聳え立つ城の中、笑い声は木霊し、その魔力の恩恵によって城はまた色を変え、姿を変えて行く。そう、ラスクが落ち着くまで。
嫌悪感を抱かれた方はすみませんでした。