【短編】私の血が枯れるまで……。
- カテゴリ:自作小説
- 2017/01/13 20:14:10
「な、なにを…している…」
「大丈夫です…ご主人様…」
ご主人様の身体から血が失われていく…命が流れている……。
私のご主人様は吸血鬼、だが、人と関わることを避け、人の寄り付かない森の奥で、ひっそりと暮らしておられる。
私は…そんなご主人様への生贄だった。
森の奥に人の生き血を啜る化け物がいると、町の人間が一方的に怯え、身寄りのなかった私を縛り上げ、森の中に放り込んだのだ。
ご主人様は、そんな私を拾ってくださり、特に私の血を啜るでもなく、森の外に捨てるでもなく、私を屋敷に置いてくださった。
私は、そんなご主人様のお役に立ちたくて、お屋敷で働きたいと申し出た。
ろくに何もできなかった私を、ご主人様がいちからいろいろなことを教えてくださった。
そんな2人の時間が何よりも私は好きで幸せだった。
それなのに……。
町の人たちが、武器を手に、突然やってきた。
「俺たちはもう耐えられないんだよっ、あんたが死んでくれればまるくお収まるんだよっ」
「なんてことっ……」
「……」
この人たちは何も変わらない…。
私を森に捨てたときのように、この人達は、自分たちが安心することしか考えていない。
その様は見るに堪えない、醜いものだ。
「この方は、みなさんと関わることはありませんっ…私たちのことは…放っておいてくださいっ…」
「そんなことっ……信用できるかっ……邪魔をするならっ……お前からっ…っ!!」
「っ!!」
ご主人様に向けられていた武器の矛先が私の方にむけられる。
もともと人を殺すなんて恐ろしいことを成し遂げられる人ではない。
きっと私が死ねば目も覚めるだろう。
もともとご主人様に拾っていただけなければ死んでいた命………身代わりとなれるなら本望だ……。
「うわああっ」
「!…?」
静かに目を閉じるも、身体に痛みが走ることはなく、代わりに感じたのは、温もりと血の匂い…。
「っ…ぇ…ぁ…」
「っ…くっ…」
ご主人様が、私をかばうように抱きしめ、背中を刺されていた。
「まったく…お前…は…」
「ぁ……ぁぁっ…」
本来吸血鬼は刺されただけでは致命傷にはなりえない。
しかし、長い間、人間の血を接種していなかったご主人様の身体は、傷の修復が出来ないほどに弱っていた。
ご主人様の身体から力が抜け、私の目の前でゆっくりと崩れ落ちる。
「い…や…いやあああああっ、ご主人様ああああっ!!」
私が叫びながらその身体に縋りつくなか、町の人たちが、怯えた表情のまま、逃げるように立ち去ったことなど気づかなかった。
私の目に映るのは、血を流して横たわるご主人様の姿だけ。
このままでは……ご主人様が死んでしまう……そんなこと……あってはならない……。
私が拾われてから、ご主人様は私の血を吸おうとは決してなさらなかった。
きっとそれは、私を餌として拾ったわけではないというご主人様のやさしさ。
きっと私が今からすることはご主人様のその想いを裏切ることになる。
それでも…ご主人様が助かるなら…。
私はご主人様の上にゆっくりと乗り、護身用にいただいていたナイフを引き抜く。
「な、なにを…している…」
「大丈夫です…ご主人様…」
そのナイフでゆっくりと自らの手首を引き裂き、傷口から滴る血をゆっくりとご主人様の口元に運ぶ。
「うっ…よ、よせ…」
「っ…お役に立てるなら…っ…いくら……でもっ……っ」
傷口から自分の命が流れていき、それがご主人様の中に入っていくのを感じながら、私の身体がゆっくりをご主人様の上に倒れこむ。
その時、首筋に痛みが走った。
「!…ぁ…っ…」
「っ…美味い…止められそうにない……っ」
「ぁ…ぁ…ご、ごしゅ…じん……さ…ま…」
私が、痛みに呻きながら、ご主人様の顔を見ると、その瞳が赤く輝いている。
ああ…なんて美しい…。
初めて見る、吸血鬼本来の姿…その狂気的な美しさに、私は心が震えるのを感じた。
どうか…心ゆくまでご堪能ください…私の血が…枯れるまで…。
END
あとがき
こんにちは。
吸血鬼ネタを書いてはみたのですが、何日かに分けて書いたので、後半力尽きてます…ごめんなさい…。
もちろん全部妄想です!
こんな経験は全くありません笑
感想など伝言板記事にいただけたら、泣いて喜びます。