【短編】銀の獣
- カテゴリ:自作小説
- 2017/01/18 22:02:37
満月の夜、森に近づいてはいけない。
その森には……。
私は夜の森をさ迷い歩いていた。
村の掟で夜森に入ることは固く禁じられていたが、病が悪化した祖母のために薬草を取りに来たのだ。
「どうしよう…このままじゃ…」
薬草の採取に夢中で、帰り道が分からなくなった私は、森の奥へと進み続けていた。
しばらくすると、かすかに明かりが見えた。
こんな森の奥に、人が住んでいたなんて…。
助けを求めて小屋の方に向かおうとしたとき。
木の陰から何かが飛び出してきた。
「きゃっ…」
驚いた私は、その場に座り込み、薬草の入った籠を落としてしまう。
恐る恐る見上げると、そこにいたのは一匹の狼だった。
なんて立派な…綺麗な…狼…..。
月明かりに照らされてきらきらと輝く銀の毛並み。
心の奥を見透かすような黄金の瞳。
その美しさは、思わず恐怖を忘れ、見とれてしまうほどのものだった。
私がその場で動けずにいると、狼はゆっくりと私に近づいてきた。
た、食べられるっ…。
再び襲ってきた恐怖に身を震わせていると、狼の動きが止まる。
「っ…ぐっ…ぅうっ…」
「!!」
苦しげなうめき声をあげたかとおもうと、狼は銀髪の青年へと姿を変えた。
これは…いったい…。
目の前の出来事が理解できずに、私は茫然とその姿を見つめる。
すると青年の方が口を開いた。
「なぜ…人間が…ここにいる…」
「ぁ…」
「……」
私が返答をためらっていると、青年は私の傍に落ちている薬草の入った籠を拾い上げため息をついた。
「人間の村では……夜の森へ入ることは禁じられていたのではなかったか…?なぜお前は…ここにいる」
「ぁ…ごめんなさい…どうしても薬草が必要で…」
「……」
私の言葉に、青年がどういう感情を抱いたのかは、この時の私にはわからなかった。
私は意識を失い、次に気がついたときには、自分の家のベットの上にいたからだ。
次の日、私は、再び薬草を取りに行くといって森へと向かった。
昨日の夜のこともあり、祖母は私を止めたが、今は昼だから心配ないと何とか説得した。
もちろん本当の目的は薬草ではない。
昨日の青年にもう一度会いたかったのだ。
昨日は暗かったこともあって、正確な道順は覚えてはいなかったが、とにかく森の奥へと入っていった。
すると…。
「また…来たのか…」
「!」
昨日の青年が姿を現した。
「あ、あの…昨日はありがとうございました…」
「なんだ…例を言われる覚えはない…」
「家まで…送ってくださったんですよね…?」
「……行くぞ…」
「え、あ、あの…」
私が昨日のお礼を口にすると、彼は、不意に私の手をつかみ、歩き出した。
着いたのは、昨日私が目指していた小屋だった。
中に入ると彼は、私をダイニングの椅子に座らせて、私に紅茶を出してくれた。
「美味しい…」
「お前…なぜこの森に来た…薬草じゃないな…」
「あ、あの…」
紅茶で落ち着いたところに、彼に見つめられ、私は戸惑いながらも、返事をした。
「昨日の…貴方が…忘れられなくて…どうしても……もう一度……貴方に会いたくて……」
「ふっ…お前…変わってるな…」
私の返答に納得したのか、彼は、私に笑いかけてくれた。
その笑顔があまりにもきれいで、私は思わず、息をのんだ。
彼は私にいろいろ話してくれた。
彼が、森の守り神として崇められている人狼の子孫であることや、昼は人の姿で暮らし、夜は、狼の姿で森を守る、その生活をつづけていることも。
昨日は、私が夜森を訪れたために、彼は人の姿に戻ってくれた。
しかし、私が気絶してしまったため、私が採取した薬草と一緒に、私を家まで運んでくれたのだ。
「え…なんで…私の家…」
「お前の…匂いが…続いてた…花みたいな…いい匂い…お前…いい匂い…する……」
「えっ…あ、あの…」
彼の顔がさっきよりも、ずっと近くにある。
私は、彼の顔から目が離せなかった。
それから私たちは、この森で過ごし、よく話すようになった。
「ひな…これ…」
「ありがとうっ…これ…花の冠?リオンが作ってくれたの?」
「花が…似合うから…」
彼は私に、素敵な花の咲いている場所や、森の動物たちと触れ合う時間をくれた。
私は彼に、祖母の病気のことを相談し、彼が教えてくれた薬草の組合せで、祖母の具合もかなり良くなってきた。
彼と過ごす時間は、とても楽しく、幸せだった。
この時間がいつまでも続けばいい…そう思っていた。
しかし、その幸せは、あっさり壊れてしまった。
ある日の夕方、私は彼の小屋で、彼と一緒に過ごしていた。
すると、小屋の外で、銃声が響いた。
「きゃっ…な、何の音?」
「人間の匂い…そして…銃の匂い…」
「銃!?」
「ひなは……危ないから……ここにいろ…」
「リオン?」
「森は…俺が…守る…」
「あ…」
そういって、彼は、私を小屋に残して外に出た。
そして暫くたったころ…。
再び銃声が聞こえた。
「!…リオン…っ」
私は彼のことが心配になり、小屋を飛び出して、彼を探した。
「リオンっ…しっかりしてっ…リオンっ…」
森の中をさまよい歩き、倒れている彼を見つけた。
彼を抱き起すと、肩に撃たれた跡があった。
「ひ…な…」
「リオン…何…?」
「に…げろ…」
「え…」
「そこまでだ」
「!」
彼が私に「逃げろ」とつぶやいたとき、後ろで銃を構える音が聞こえた。
「あ……」
ゆっくりと振り返ると、2人組の男がこちらに猟銃を構えていた。
恰好から察するに密猟者だろう。
「お嬢さん…その男から離れな…俺たちはその男に用があるんだよ…」
「え……」
「ここには昼間、人の姿をした珍しい狼がいるっていうじゃねえか…そいつみたいなきれいな銀髪してるってよ…」
「そんな…」
この人たちは、彼を殺しに来たのだ。
彼がこの森にとってどんなに大切な存在か、何も知らずに。
「もう、やめてくださいっ…これ以上…彼を傷つけないでっ」
「そうはいかねえよ…こいつをやっちまえば、高い金が手に入るんだ。邪魔をするってんなら、あんたにも死んでもらうぜっ…」
「っ!!」
2人が手にした猟銃から、銃弾が放たれる。
私は彼を守りたくて、彼の身体を強く抱きしめ、目をつむった。
しかし、次に目を開けたとき、私は彼に抱きしめられていた。
「ひ、な…けがは…ないか…?」
「り、リオン…どうして…」
「よかった…」
「!」
彼の身体がゆっくり崩れていく、彼の背中を触ると、私の手には、彼の血がべったりとついていた。
「い、いやぁあああ‥‥リオンっ…リオンっ…」
彼の身体をいくらゆすっても、冷たくなっていくのを止めることはできなかった。
リオンは…私のせいで…。
自分のせいで彼が死んでしまった事実に、私はショックで動けなかった。
「ったくてこずらせやがって…おい嬢さん…そいつを渡しな…っ!?」
彼らが私に近づこうとしたその時、息をひそめていた森の動物たちが一斉に彼らに襲い掛かった。
「な。なんだ!?」
「うわああああっ」
最初は、猟銃で応戦しようとした彼らだったが、あまりの数の多さに、たまらず逃げ出していった。
「リオン…リオン…」
リオンの亡骸の傍で、私はずっと…彼の名前を呼び続けた…。
END
あとがき
こんばんは、今回は、何時も読んで下さってる方から、リクエストをいただきまして、書いてみました。
狼男ネタです。
BADENDというリクエストだったんですが…ご希望に添えましたでしょうか;;
感想やリクエストなど伝言板記事にいただけたら、泣いて喜びます。