【ロイト小説】 カズール・コム 00 影 
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【ロイト小説】 カズール・コム 01 雨
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02 情報交換



「……情報提供には感謝する」
「なに、こちらにとっても利点は多かった。礼には及ばない」

ロイト総帥は、不敵な笑みを浮かべながら言う。
それを宇宙海賊アレクシスは、柔らかい笑みで受け流す。
そんな白々しい言葉の応酬を、私は総帥の影の中から見ていた。

……ロイヤルトレイン機動隊総帥と宇宙海賊との会見は、不気味なほど和やかに見えた。
聞こえるのは、二人の話し声だけ。あとは物音ひとつしない。

だが、それは薄氷の上に立っているような危ういものだろう。
今すぐどうなるという切迫した状況ではないけれど、いつ氷が割れるともしれない緊張感、
それでいて、一歩進んで、ああ、まだ大丈夫だと安堵する一瞬の緩み…
その両極端に振り回されているといった感じか。

レトロな帆船を模した海賊艦は、乗組員が多数いるだろうに、誰一人、姿を見せなかった。
余人を交えない１対１が会う条件だったとしても、徹底している。
そもそも相手は海賊だ。キチンと統制が取れているなどフツーはあり得ない。

どこで知り合って、どうやって情報提供者に仕立て上げたものか。
この人も謎だよなぁ……と総帥の刃物のように鋭利な笑みを眺めつつ、私は思った。

数時間前のことだ。

鰐江捜査官に怒鳴られ、仕事に取り掛かろうとドアに手をかけようとした瞬間。
総帥から鰐江捜査官に緊急連絡が入った。

「カズールをこちらに寄こせ」

総帥と鰐江捜査官との間ではもっと多くのやり取りがあったはずだが、
私に伝えられたのはその一言のみだ。

それで私は、トレイン内の専用ルームから本部まで亜空間移動をするはめになった。
亜空間を移動すると、頭が痛くなるので断固、拒否ります !!
そんな言葉を、言える身分になりたいもんだと思いつつ、飲み込んだ。

本部へ着くと、総帥は私の顔を見るなり 『影に入って書記をしていろ』 と一言。
そのまま本部を出る。
背後から、護衛がカズールひとりでは心もとなさ過ぎます、という誰かの声が飛んできて、
そうだそうだ !! と心の中で叫んだが、総帥にはガン無視された。

そんなこんなで今、私は総帥の影の中で周囲の様子に神経を尖らせながら、
音声を文字データに変換させて、報告書を作成中。
会見終了と同時に完成させ、今度は機密扱いで鰐江捜査官に配達するのだそうだ、私が。

私、何でも屋だなぁ…、とため息が出そうになる。
最も、そんなことを口にしようものなら 『解り切ったことを言うな』 とバカにされそうだ。

「惑星コルムの軌道か…」
「すでに下っ端どもが集まり始めているようだ。あまり時間はないぞ」

私が心の中で、ひとり無駄口を叩いている間にも、会見は進む。
おかげで、これまで聞かされた話と私が集めた情報の隙間が埋まり、パズルが一枚の絵になって見えてきた。

ロイヤルトレインはレール上を走る鉄道ではない。
だが一応は決まった軌道というものがあり、それを保守するのもロイト公安の仕事のひとつ。
惑星コルムにある軌道を含むエリアで、海賊が襲撃の計画を立てているというのが、
今回の会見でもたらされた情報のひとつだった。

テロと略奪を繰り返す海賊たちに資金提供をしているのが、カラート侯爵。
カラート侯爵は惑星アビロの貴族だが、海賊を使って稀石を収集するコレクターでもある。
海賊のテロ行為が攪乱なのか、行きがけの駄賃なのかは不明だが、
そこには高い確率で、カラート侯爵が欲しがる稀石の現物や鉱山がからんでいた。

惑星コルムの軌道保守のために、早急に実行部隊を派遣することになるのだろう。
同時にトレイン内では、資金提供者でありカラート公爵を 〝裏〟 仕事に関わるメンバーで始末する。
総帥が描いているのは、そういう絵なのだろう。

情報提供者である宇宙海賊アレクシスに、私は改めて目を向けた。
アレクシスが、数多いる海賊の中でも、かなり異質な存在であることは噂に聞いている。
善良な一般人には手を出さないが、正義の味方ではなく、興味がないだけだろう。
その一方で、権力や権威というものを徹底して嫌っているというのは、つとに有名だ。
某惑星の支配者を一族もろとも葬り去ったという話もある。
対するロイヤルトレイン機動隊総帥という存在も、これでけっこうな権力を持つ。
いざとなったら総帥が自ら特注の鞭を振るうにしても、護衛が私ひとりというのは何とも心もとない。

ヘタに怒らせず穏便に片づけてくださいよーと、私は口には出さず総帥に願った。

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そのころ、ロイヤルトレインでも密かな情報交換が行われていた、機関室の片隅で。
ルイ捜査官、機関士サクラ、そしてテロ対策官イリヤの、公安黒服三人組だ。

鰐江隊長が最近、カズールを動かしているらしいね。
公安の〝裏〟が動くようなネタかな。
たぶん …だろうと思っている。
そっか～。動くとしたら久しぶりだよね。
そんな頻繁に裏部隊が動くようでは、コッチの身が持たないけどな。
……カズール、よくやっているよね。
いや… あれでけっこう喜々として、っていうかオモシロがっていると思う。
えーと、実は えむ体質とか ?!
さあ…。でもアイツ、それなりに変態だから。
熱で寝込むことはあっても精神は打たれ強いから、隊長もイジメ甲斐があって楽しいだろう。
ちょっとちょっと… その言い方、ひどくない ?!
でも、カズールだからねぇ。

…… そんな会話をモチロン私は知らない。
後からルイ捜査官と機関士サクラがそれぞれに、そんな話をしていたのだと教えてくれた。
みんな気配を感じているらしい、さすが表だけでなく裏にも関わるメンバー達だ。

ただ、一部訂正したい内容も、あるにはあった。
ここでツッコミを入れるのは大人げないだろうと気持ちよくスルーしたが、
肯定したと思われたら、全身全霊をかけて反発しようと思う。





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