この話は、ひとつ前の　フェーレース誘拐事件　カズール.3　から続いています。



バル・ミャウのアンジュがくれた最後の情報は、
ビエラーが過日の取引で少なからぬ負債を追ったというものだった。
つまり急ぎ現金を欲している、子どもを動かす可能性がある、と、そう言いたいのだろう。
カズールはバルの支払い等一切をノワールに任せ、
フェ―レース城の反対側、居住区を抜けた先にある森を目指して走った。

土地勘が無いことを差し引いても、自分が全く届かなかった情報を、
あれほどあっさりとオープンにされたことに、若干の悔しさを覚えたというのもある。
それでも、悔しがるのは後だ、と自分に言い聞かせ、教えられた建物を探す。

住民が憩うキャンプ場や湖のある森にバイクを止め、住民があまり行かないという反対側の木立の中を進むと、
ふいに視界が開け、場違いな石造りの暗い建物が見えた。
森の樹々が周囲を取り巻き、天然のフェンスの役割を果たしているようだ。
玄関にはワゴンのような車両が止まり、入口を全開に何かを運び入れようとしている。

（子どもを移動させるのか ?!）

そんなことを考えながらカズールは、車両近くの男の影に忍び込み、様子を伺っていると、
ほどなく耳と尻尾を持った子どもが三人、男たちに抱えられて出てきた。
みな眠っている。年齢は…三歳くらいか !?
どの子も、カニャールのバー地下で見たよりも少し幼いように思えた。

行き先はカニャールのバーか、それとも別のところか。
そんなことを思い巡らせている間に、車両は発進し、わずか5分ほどで停車する。

「ガキを下ろしてカプセルに詰めるぞ」

周囲は、先刻の建物同様に森に隠された場所。建物はまるで倉庫のように趣きに欠けるものだった。
いかにも何かを隠しているといった、厳重な戸締りがされている。

中に入ると、子ども一人、既にカプセルに詰められていた。

「このガキはなんだ ?!」

その奥にいたチンピラ風の男が何かを言っている。
カズールが影に忍んでいる男がすぐに車両の側に戻ってしまったため、うまく聞こえない。
それでも何やら言い争っているように見えた。

コイツの影では全貌がつかめないかもしれない、と、影からこっそり抜け出して
ひとまず離れ、樹々の陰から位置を確かめる。
遠くに、フェ―レース城を眺めるにオススメと言われる展望橋の尖塔が見えていた。
まだ居住区の奥にある森からは出ていないのだろうと推測し、そのまま樹々の陰から様子を伺う。

ひとまず今夜、見聞きしたことをまとめ、ノアールと情報共有し、出来れば裏を取り、
鰐江捜査官に報告をして対応が決められるだろう。

総帥には、フェ―レースの警察機構に知られたくないという意向があるようだから、
出来る限り、ひそかな始末になるのだろうか。
それとも、コッソリとフェーレース警察に発見させるような仕掛けでも、するのだろうか ?!

カズールがそんなことを考えながら、倉庫のようなアジトを見張ってると、
ブォーーーーーンという轟音が徐々に近づいてくるのに気づいた。それもひとつやふたつではあり得ない。
いったい何が…と音のほうを振り向くと、顔を隠し危険な雰囲気を背負ったバイク集団が。
その数、20か30か…。

いったい何が起こっているんだ ?! と、近づこうとした瞬間、
カズールはいきなり背後から、誰かの腕で首を絞められ、口をふさがれた。

伏兵がいたのか、と、みぞおちを狙って肘を叩き込もうとしたが、かすりもせず外され…。
なめんな !! コノヤローとばかりに、左脚を右に高く上げ、向かい合う相手の頬を靴裏で張り倒すように
蹴りをくれてやろうと脚を廻したが…

「静かにしろ、バカ」

聞きなれた声とともに、相手の腕で蹴りをあっさり止められる。
伏兵に見つかったか、と思った時には感じなかった恐怖を覚え、おそるおそる顔を上げると……。

「相変わらず反撃がワンパターンだな、オマエ。それに蹴りが軽すぎる。しごきが足りなかったか ?!」

場違いなほど柔らかな笑みを浮かべた、鰐江捜査官が立っていた。



ノワール　❦みぃ❦氏
鰐江捜査官　クリスタル氏
カズール　和.com


ARCHMASTER Presents 壮大な電車ごっこ　〜2018年6月まで

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