Nicotto Town


安寿の仮初めブログ


カーニバルについて考えたこと


続きです。

酩酊と混沌、破壊と暴力、無益と無意味。

そして、安寿は、初めて理解しました。
カーニバルとは、「蕩尽」なのです。
消費し尽くし、放蕩し尽くし、破壊し尽くす。

なんのために、そんなことをするのか。
そこに目的合理的な意味などないのです。
ただただ、今まで築き上げてきた日常を、
この1週間の間に、燃やし尽くしていくのです。

そのような衝動は
人生を、一つの作品として、
その完成を目指して生きていく生き方、人生観、
あるいは、人類の営みを、最後の審判にて終わる一つの歴史、
壮大な物語と考える歴史観とは、
明らかに異質なような気がします。

むしろ、一年間積み上げてきたものを、
この一週間で、すべて燃やし尽くしてしまうかのような
無意味で馬鹿げた破壊の衝動が、
カーニバルにはあります。

お菓子をバラマクのも、
それが功徳になるとか、施しになるとかという意味ではなく、
無意味かつ大量に消費し尽くす蕩尽行為の表現なのです。
だから、拾われずに、大量のゴミになっていっても、
それはそれで構わないわけです。
そう、馬鹿げていて、無意味な行為なのです。

しかし、無意味なことに、全財産を投じて初めて得られるような恍惚感、
おのれの人生を投げ捨てて、初めて味わうことができるような愉楽悦楽、
虚無という代償を払って初めて得られる至高体験が、そこにはあります。
井原西鶴の浮世草子のような、近松門左衛門の心中物のような、
虚しく、狂おしく、儚いがゆえに成り立つような虚無の美学があります。

そんなことをして、何の意味があるのか。
繰り返しになりますが、何の意味もないのです。
あとに残るのは、「やっちまったぁ」という、
苦笑いを伴った虚脱感だけなのです。

自分の人生において積み上げてきたものを、
この一瞬の悦楽のために、燃やし尽くし、灰にしていく。
そして、燃えつきてしまった今までの自分を、
虚しく見つめながらも、
しかし、そうした行為に及んだ自分自身に対しては、
一点の悔いもない。

文化人類学の方では、「蕩尽」を、
自らの勢力や資産の豊かさを
周囲の人々に見せつける行為として紹介されているようですが、
しかし、「蕩尽」の核心部分は、
その行為に歯止めが利かなくなり、
どんどんエスカレートして、
自分の資産はおろか、社会的地位も、
自分の人生をも投げ捨ててしまうところにあります。

今までの自分自身を、
他でもないこの自分自身が否定し、
燃えつきさせていくことによって、
初めて味わえるような、虚無的な陶酔感。
それが「蕩尽」の本質なのではないかと思います。

この時間感覚では、
人生や歴史は、
完成に向かって登りつめてはいきません。
むしろ、延々とおなじサイクルを繰り返すだけです。

日々、労働して蓄えたものを、
一夜の内に、灰にしていく。
そしてまた、翌日、何もかもゼロになった地点から、
また蓄えを積み上げていく。

なんのために?
すべてを燃やし尽くす、一瞬の悦楽と虚無を体感するために。

ここにおいて、時間は、永遠の円環を繰り返すのみです。
社会も人間も、何も積み上がってはいきませんし、進歩していきません。
積み上げたものを、すべて灰にし、
またゼロから積み上げ直し、
そしてまた、そのすべてを失っていく。

人間とは、人生とは、
本来、そういうものなのかもしれません。

何を積み上げようとも、
宇宙の中では、全知全能の神の前では、
人間の行うことなど、所詮、壮大な無駄に過ぎない。

その無駄を自覚しながら、
しかし、それでも、神に近づくことを目指して、
積み重ね、昇りつめていくことに価値を置くのか、
それとも、無駄であるがゆえ、
この一瞬にすべてを燃やし尽くして、
生きていくことに価値を見出すのか…。

自らを擲ち、一瞬の刹那に、
おのれの命を燃やし尽くすことができるか否か。
そこが、カーニバルを楽しめるかどうかの、
分岐点になるのでしょう。

急性アルコール中毒で少なからぬ若者が亡くなり、
至る所で喧嘩騒ぎが起こり、
時には暴動にまで発展しようとも、
それが、カーニバル。
それこそが、人生を擲ち、すべてを灰に帰す
カーニバルの本領なのですから。

そして今日は「灰の水曜日」。
この日は、カーニバルの道化師ホッペディツが燃やされ、
この後、復活祭まで、肉食を断つ期間に入っていきます。

そして、次の11月11日の11時11分に、
ホッペディツは再び復活し、
すべてが灰になるまで、
人生を繰り返し蕩尽していくのです。




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