【アナザーカントリー】 番外・始まりの一言


「本気か？」

代筆屋が誰か、なんて調べるのはそう大層なことではないはずだ。
生徒会室には過去の資料がそれなりにあり、それらを紐解けば代筆の仕組みはもちろん、
依頼・連絡・受け渡し場所などもある程度、絞ることができるだろう。
そこからたどれば浮かび上がる〝誰か〟がきっと見つかる。

だが、エクリュはそれをしなかった。
しないまま、恋文の文言に惹かれ、熱に浮かされるかのようにエクリュの目はまどろんでいく。
ただの代筆なのだと、自分に向けられた本心ではない、と解っていながら。

「さぁ？ 自分でもよく解らないな」

そう言いながら、そもそも本気って何だよ？ 好きに本気と本気じゃないのがあるとでも言うのかい？
とレドに、混ぜっ返すような問いかけをエクリュは投げて寄こす。

「本気なら探すんじゃないかと思うが？」

そんな疑問をエクリュに投げれば、さぁ？ 自分でもよく解らないな、と同じ言葉が返ってきた。
……なんてメンドーな。
それを口に出す代わりに、レドは盛大なため息をついた。

実のところ、レドは今代の代筆屋が誰なのか、情報として知っていた。
レドにとっては秘するほどのものではないので、エクリュに問われれば、すぐ教えただろう。

だが、姿形でなく態度や声といったものでもなく、ただ恋文から読み取れる情報に傾倒していく。
そんな今のエクリュに、ある生徒の名を告げて喜ばれるとは思えなかった。



「それでね、その不快そうに歪む顔が色気ダダ漏れで！」

ミルクを入れた耐熱フラスコを三脚台に乗せ、アルコールランプに火をともす。
芯の近くは白く、先は朱の色に、中心は黄色に染まった炎を眺め、
レドは年下の友人が嬉しそうに語るのを聞いていた。

「無邪気な表情に、それでいて憂いを滲ませる！ 彼の姿こそ最高の芸術だよ」

最初に沸かした湯でカップを温め、別の器に二人分の茶葉を入れ、ひたひたの湯を注ぎ。
ミルクが沸騰する直前に、あらかじめ開かせておいた茶葉を湯ごと耐熱フラスコに入れて数分、蒸らす。
それでロイヤルミルクティーが出来上がった。

「これだけ天使を描きちらして、まだ満足できないのか？」

ミルクを温めると、たんぱく質が凝固する。
後で洗うのがメンドーなので正直、耐熱フラスコではやりたくない。
それでもたまにはいいだろう、とレドはカップを差し出した。

「満足なんて程遠いよ。まだ足りない！」

描き足りないし！ まだ語り足りないと満面の笑みを浮かべるモーヴにレドは苦笑する。
エクリュに比べ、モーヴの思いはストレートで解りやすい。カーマインが天使かどうかはともかく。

相変わらず美味しいねぇ、とロイヤルミルクティーに一口つけて、ほっと息を吐く。
そうして、何かを思い出したように顔を少し上げて宙に視線を彷徨わせた。
どうしたのかとレドが問えば、

「カーマインが最近、セルリアンを目で追っているんだ」

それはまぁ、それ自体はさほど珍しいことではないんだけどねー、と前置きをして。

「ガーゴイルの鎖を初めてつたった時のように、全身で緊張しているように見えたんだ」

ストーカーまがいをしている彼らしい例え方で、レドは笑おうとしたが…。
モーヴのあまりに真剣な表情に笑えなかった。

「何か、聞いている？」
 

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そんなモーヴの問いに ……頭の隅をかすめたのは、エクリュの熱を持ったような目だった。
情報が欲しい、とレドは思う。

もう少し詳しく聞かせてくれ、と言うと、モーヴはきょとん？ という顔をして、
それからゆっくりと目を細め、口の端をニヤリと上げた。

「……レドの報酬、ひとつ。情報料」

そう言って人差し指を１本立てた。
足元を見やがって、とか、ここぞとばかりにたかるのかよ、とか、思うことはあったが。

レドはモーヴの隣に場を移し、人差し指で彼の顎の角度を少し上げると、そのまま軽いキスをする。
離れようとすると、モーブはすかさずレドの首に腕を回し、レドの唇をぺろりと舐めた。

「追加情報も寄こせよ」

思いきり苦い顔をして、レドは、モーヴを睨みつける。
カーマインが絡むことなら任せて！ とモーヴは雲の切れ間から陽が差し込むような晴やかな笑みを見せた。










モーヴ　ミュ☆ミュさん
カーマイン　ネコ衛門さん
セルリアン　❧響さん
エクリュ　和.com　← ただのNPCのハズがいつのまにか自分キャラ
レド　和.com　← 語り手

 ヾ(≧▽≦)ﾉﾞ

セルリアンの件を知るキッカケ、モーヴに一役買ってもらいました。
これは代筆騒動の前哨戦。次は～エクリュの回、書かなきゃ許されないだろうな (￣～￣lll)
業務連絡、〇ュ☆〇〇様、名誉棄損で訴えないと信じているからね～～～っ。

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