Nicotto Town


あなたに会えてよかった♪


【第8話】黄昏のソロキャン


「先輩っ!どうやって火を熾したらいいんですかっ…」

沙也加がバーベキューコンロの前、炭を入れたダンボール箱を手にして呆然とした表情で叫んだ。
「天塚クン、今度は可愛い後輩連れてきたんだね。はじめまして~~」
食材を満載した保冷ケースを抱えて運びながら、しずかさんが言った。
「少年っ!いや青年! 毎回違う同伴女子を連れて来るとはなっ お前も成長したもんだ」
タープを張り終え、痛む腰をさすりながらクマさんが額の汗をタオルで拭ってる。

「でも…ちょっとびっくりしたよ…天塚クンにこんな可愛い後輩女子がいたなんてね」
沙也加の火熾しを手伝うため、着火剤とライターを手にしてコンロの前に向かった俺に、しずかさんがそそっと駆け寄って耳打ちしてくる。
「あ はい… いえ そんなことないですよ」
何が『そんなことない』なんだろってさ。
俺は言葉を濁して、荷物を車から降ろす神田さんのほうをチラ見してみる。

もうおなじみ、天使坂キャンプ場。5月の陽射しはもうすぐ夏が来ることを教えるように、けっこう厳しく俺たちを照らしているんだよ。

「で、神田さん?一緒に連れてくるって言ってた人は?」
沙也加がウチワで、俺が着火剤で点けた種火をぱたぱた煽りながら尋ねたんだ。
こいつもかなりのファンタジスタだな。まぁ何も事情知らねーからしかたないんだけどね。

神田さんはちょっと言い淀んだ様子で、でもそれを打ち消すようににっこりと微笑みながら
「就活で忙しいんだって。また誘ってって言ってたよ」

「ほう、神田沙織の友達とな?きっと美人なんだろうな」
クマさん、もう店広げちゃって… 缶つまとキリンの一番搾り缶を手にしてるじゃないですかっ。

「そうよねー 沙織ちゃんの友達ならみんな、超、空前絶後、すーぱーウルトラ美人ばっかりだよ。今度絶対連れてきてね?できれば2人以上ね」
しずかさんが調子を合わせてそう言った後、ん?と眉根ひそめて

「クマさん?何デレデレした顔してんの?」
「いっ いやっ それは言いがかりだぞしずかっ!」

いや、君たち…神田さんが連れてくるって言ってたのは女子じゃないんだけどさ…って思いだしたらちょっと胸に、軋むような痛みが走ったのは内緒だよ。


「でねー天塚先輩は、先輩の妹の楓ちゃんの友達からもけっこー人気あったんですよ!」
肉を口いっぱい頬張って、目を白黒させながら咀嚼し終えた沙也加が唐突に爆弾を落としてきた。
「へぇ…青年はそんなにもてたのか?俺なんて27年間、彼女なんてできなかったんだぞ!」
ビール缶を空けて、片手でぐしゃっと握りつぶしたクマさんが突っ込んでくる。
28歳で初彼女ですか?

「そ、そんなの初耳だそ?沙也加っ」
俺は慌てて神田さんの方を見る。
彼女の反応は、なんだか焚き火の灯りが弱すぎてよく見えない。

「やっぱりねー 私は前からそうじゃないかって思ってたんだよ。天塚クンって微妙にかっこいいしさ」
笑いながらトマトのアルミフォイル焼きに箸を伸ばすしずかさん。
「ですよねっ。なんて言ってる私も、先輩に憧れてたんです」
沙也加はウーロン茶の紙コップを手に、俺の方を見て2発目の爆弾を投下してきたんだ、マジか…ってさあ。

「え?そうなの椎名さん…?」
神田さんがちょっと反応してきた。

「はい。高校2年の時、財布忘れてお昼のパンが買えない…ってしょぼんしてた私に、先輩は500円くれたんですよ。『これで足りるだろ?』って。なんて優しい人なんだって感激しちゃって~ で恋に落ちたんですっ」
「たった500円で? やすっ!何人もの女子に、その何十倍もご馳走してきた俺は何で彼女ができなかったんだ…」
クマさんが凹んだように肩を落としてさ。

「だってそのあと沙也加、500円俺に返してくれなかったろ?」
「え?先輩って案外ケチなんですね。あれはおごってくれたんでしょ?」
「違うわっ しっかり『貸しだからな』って念押ししたのに、卒業しても返してくれなかったじゃないかっ」
「えへへ…まあいいじゃないですか。そんなこと言ってたら、100年の恋も冷めちゃいますよ?てか、さっきの話はちょっと盛りましたけど」
いかん、やはりこいつには勝てん…

神田さんも会話に加わり、しずかさんもニコニコしながらビールを飲んでる。
焚き火から無数の火の粉が、白い煙に乗って天空に舞い上がっていく。


「先輩、なんか辛そうですよね?」
トイレから出たら、その前に沙也加が立っていたので俺は腰が抜けるほど驚いた。
「…えっ 何でそう思うんだ?」

「だってねぇ…神田さんを見つめる先輩の目、なんだか切なそうでしたし…」
案外鋭いやつだなあって。

「私やクマさん、しずかさんと話す時は楽しそうなのに、神田さんと話す時はちょっとぎこちないっていうか…なんかそんな感じだったと思ったんだけどなあ…」
沙也加は肩を竦めるように、手洗いでて手を洗っていて。

で、思いもかけない3発目の爆弾がその時落ちてきたんだ。
「先輩だけじゃなくて…神田さんも、先輩と同じ、辛そうでしたよ…」
(続く










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2021/07/05 22:17
天塚クンは、3人の娘に、狙われてるぞ~~~~(ΦωΦ)フフフ…
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2021/06/29 05:46
ひどく丈のずれたオートクチュール
ほつれていくボタンの穴~♪ (米津くんの宣伝ですw)

さあ、少しずつすれ違ってしまった二人は
また戻ることができるのでしょうか!?
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2021/06/29 02:00
賑やかなキャンプの夜、どうなるやら・・?
けーすけさんの車中泊も取材としていきるのかな・・?





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