【第12話】青空の行方～ゆくえ～
- カテゴリ：自作小説
- 2021/09/14 22:46:14
「なぁ 沙也加てさ、いつも明るいけど」
「そ…そっかな？」
ジャージ姿の2人は、薄暗いルートに歩を進めていく。
「でもな… 今日はなんだか、ちょっと沈んでるよな？」
沙也加は慌てて、そして少し一平を睨むような視線を作ってみた。
「そ…そんなことないよっ！いつも通りだよっ！」
「まあいっか… でもその沈み具合、俺の知ってる奴がかかわってるとか？」
「えっ… ナイナイ！そんなことっ」
沙也加は明るく振るまう素振り。
一平はちょっと笑って、いきなり沙也加の手を取った。
「あ…あのっ…」
「なんだい？」
「いやその… いきなり手を…とか…」
慣れてるようなその行動に、ちょっと飲まれた感じで沙也加が反応する。
肝だめし最後の組。そして、それはこの後に誰もいないという意味。
「俺ね…今日ずっと気になってたんだよ。沙也加が何だか元気ねーってのがさ。そしてね…」
「あ…うん…」
2人は手をつないだまま、遠くのLEDの明かりだけが薄っすら照らす道に歩を進めていて。
「それってさ、やっぱ…」
言い淀む一平。
「な…なに…？」
真剣な表情の一平に、気後れするような、でもそのつながれた手を振り払うほどの気持ちの揺れもない沙也加。
「いや…まぁいいや…」
照れ隠しのように笑って彼女の顔を見て。一平は手を離す。
「あ…」
立ち止まる沙也加。
「今度はこっちのターンだな。 どうしたの…？」
立ち止まり、沙也加に振り返っては身体を屈めて顔を寄せる一平。
「あ… うん… あの…」
頬を染めながら視線落とす沙也加も立ち止まって。
「あのさ… 拓海？」
「ん？なんだ？」
結衣は隠れている草の陰から手招きして
「あれ…なんなんでしょうね…？」
「ああ…そうだなあ… 一平が沙也加を口説いてるって感じか？」
「はあっ！」
振り返る結衣は、呆れたような表情で腰に手を当てる。
「だいたいさ…肝だめしってこうゆー男女の複雑な関係を浮き彫りにするってシステムなのっ？ おかしいじゃない。もっときらきらした青春のイベントって思ってたのにぃ！」
「声が大きい。あいつらに聞こえちゃうぞ？」
目を白黒させて黙る結衣。
「…で…一平はさ…？」
思いがけない近距離での相対に、戸惑った様子の沙也加は、やや声を震わせて。
「うん 俺は…？」
「どう…したいの？」
「どうって…？」
「だからもぉ… 何が言いたいのかはっきり言ってよ…」
一平は少しだけ肩をすくめる。そして唇の端を緩めて笑顔を見せては
「はっきり言っていいのか？沙也加… お前が追い込まれるだけだと思うんだが…？」
その言葉の意味は、沙也加には明確に分かった。
告白だ…。
で、その告白を、自分はまともな精神状態で受け止められるのか？と自問自答だけを脳裏で繰り返していた。
沈黙はあまり長い時間ではなかったが、沙也加にとっては永遠に続いていく気がしていた。
「なんてなっ！ そんなマジになるなよー」
笑って、すかすように身を背ける一平は、背中を沙也加に見せては
「まぁ今まで通り、仲良いオトモダチ…でいようや。それがいいさっ…」
「う、うん… そうだよねっ！」
張り巡らされた緊張感から解放され、自分を取り戻した沙也加もつられて笑って。
「む～～～～～」
その一部始終を観察していた結衣は、不完全燃焼だった様子だ。
「何唸ってるんだよ？」
拓海は座り込んでしまっていた。
「だってだって… なんかさーー なんかさーーだもんっ！」
「てかもう俺たちの出る幕ないんじゃね？あいつら行っちまったよ？」
本当だ。拓海と結衣が登場するポイントはもう過ぎ去ってしまっている。
「はあ… なんか、ほんと…納得いかないわっ！」
結衣が頬をプっと膨らませてはそう小さく呟く。
しかしその台詞への反応はない。
「ん…？拓海？どうしたの？」
不審に思った結衣が、彼の方を振り向いた。
「終わったから帰ろうぜ。いつまでもここにいても仕方ないだろ？」
立ち上がった拓海はカツラを脱ぎ、そのまま結衣を残してコテージへと歩み始める。
「ちょっと待ってよ拓海っ！ 置いてけぼりは酷いんじゃない？」
結衣も慌てて立ち上がり、彼の後を追った。
『ほんともう…ほんとに、待ってよ 拓海ってば…』
結衣は心の中でそう呟きながら、コテージへの道を拓海の後ろで、足早に戻って行く。
それぞれの思いが、ミキサーにかけられたようにかき回され、乱れ飛び、そして流れていく。そんな合宿初日の夜だった・
(続く
いつも一緒だった幼馴染も、改めて離れて過ごすと、
新しい気持ちに気付くのかしら～？
修学旅行や合宿のあとには、カップル誕生多かったですよね。
非日常の場所では、なんだかトキメクのかもしれないｗ
夜なんだし～！
話はまだ初日の夜だったのね・・何泊するのかな～？