Nicotto Town


モリバランノスケ


お蝶の亡骸

今朝は、ここ数日のぐずついた天気とは裏腹に、空の彼方迄透き通る様な、正に、五月晴れである。我がFamilyは、いつもの様に、Breakfastを楽しんでいる。夫々が、自分好みの食材を持ち寄って、自分の五感で味わっているのだ。

お蝶の前に、置いてあるのは、昨日と同じオレンジ色の薔薇を描いた有田焼の皿だ。そこに、この森でのミツバチ達の労作である蜂蜜と、これも、この森の楓から頂いたメープルシロップを垂らした一品を入れてある。お蝶は、それをとても美味しそうに頂いている。然し、その仕草は、周りの皆に、最後の食事になるかもしれない、と思わせた。

事実、お蝶も、そう感じている。Breakfastが、終わりになりかけた時、彼女は、心の奥から湧いてくる言葉を伝えるかのように言葉を発した。

○皆さん!。私は、今、只今、皆様と、お別れ致します。私の、天から頂いた命は、この世に(さようなら)を言わなければなりません。○

こう言うと、お蝶は、少し沈黙したのである。
そして、静かに言葉を続けた。

○私は、老クスノキ様から、本当に色々な事を
教わり学びました。お陰さまで、死ぬことが、少しも怖くはありません。最初は、未熟者の私でしたか、少しづつ徐々に、生きる事の意味を
知るように成ったんです。中国の哲学者孔子が
(朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり)と、申しましたが、私の心境はその様な感じです。○

お蝶は、次の様な言葉を続ける。

○皆様、本当に、有難うございます。私の命は、今、只今、終わります。これは、別れではなく、新たな出会いなのです。ですから、(さよなら)ではないのです。それは、(皆さん、こんにちは)なのです○

そして、静かに・・・・・息絶えたのである。

我々は、それから1時間後、老クスノキの下に参集した。妻の両手の中には、お蝶の亡骸。私は、手に持ったシャベルで、小さな穴を掘る。
その周りに、小石を積み上げ、塚を造る。私はそこに、お蝶の亡骸を埋葬した。

大鷹のタカオが、<黙祷>と、大きな声を上げる。回りに集まっていた、私ども夫婦、チャム
、ウサコ、クモ吉、マミテリヤ、ピョン太、そして、黒松、夏椿、甘夏みかん、を始めとするこの庭や森の草木樹木達が、手を合わる。

そして、老クスノキが、弔辞を述べた。

⚪お蝶は、死んだのでは無い。生きておる。
彼女の姿を、言葉を、思い返して欲しい。皆の心の中に、お蝶は在る。お蝶は生きている。彼女の姿は、この世の相対的な尺度、常識、既成概念を、捨てなければ、見えてこない。

言い方を変えよう。存在しているのは、この肉体ではない。言葉である。肉体と言う衣を纏った自分が、生きているのでは無い。言葉が生きているのだ。一度でいいから、この様な逆転した考えを試みてみて欲しい。必ず生きる事が楽しくなる。

それは、心(宇宙)の奥深くに潜んでいる。全神経を研ぎ澄まし、五感を全開にした時に把握出来る、(真の言葉)である。我々の体は、コトバの通り道にすぎない。お蝶は、この事をしっかりと理解した、最初にして最後の、私の一番弟子。

お蝶は、努力して、その道程を進み、その真髄を極めたのだ。幸福とは、自分がどの様な境遇に成ろうとも、それをしみじみと味わう事から産まれる。それを、しっかりと掴んだ。心の中でお蝶と言葉を交わす事が、幸福への道標。

○時々、私を思い返して!。お話させて!○

これは、お蝶からの、メッセージである⚪

老クスノキの言葉は、聴いていた皆んなの心に深く広く浸透した様である。




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