Nicotto Town


モリバランノスケ


古道の踊子

今朝は、昨日とは変わり爽やかに晴れ渡った。我がFamilyのみならず、庭や森の草木樹木達も、弾む心を抑えられず、空に向かって開放する。
私はBreakfastを済ますと、チャムと連れ立って、
ログハウスから出て、古道の陽だまりに向う。

古道楠木兄弟に、朝の挨拶を行う。

私 (おはよう御座います)
兄 (おはよう) 弟 (オハヨウ]

私は、持参したロッキングチェアーを拡げて、ゆったりと腰を掛ける。静かである。微かに風が抜けていく。緩やかに下る、古道の先には、房総の山並みが垣間見える。見上げると、古道楠木兄弟の葉隠れから、真っ青な空が望まれた。瞳を閉じる。私は、瞑想に入る。そして、彼等から聞かされた古の物語を思い返している。

○時代は、今から約百年前大正の末である。房総半島のほぼ中央に、大多喜と言う場所がある。そこは徳川家康が江戸幕府を開いた際に、重臣として支えた、本多正信が築城した大多喜城が在る。そこは、盆地になっており、昔から、田畑が広がる豊かな穀倉地帯で、山間部を通る街道筋の交通、商品流通の要所でもあった。

したがって、俗に言う(花街)も、隆盛を極めた。
そこには、房総半島は言うに及ばず、関東や東北からも、娘達がやって来て働いていた。

ある日の事、古道楠木兄弟の下で、休憩して居る一行がいた。大多喜の街で、一仕事を終え、普段生活している、海岸沿いの街に戻る途中の踊り子の様である。その構成は、座長(男)、妻、妻の母親、妻の妹、座長の妹の五人であった。

彼等は、夫々が手頃な場所(小岩や切株)に腰を下ろして、思い思いに休憩している。そして、湧き出る清水を、手ですくって、さも美味しそうに、喉を潤した。

座長 (表街道を使えば、楽なんだけれども、
   すまないね。もう少しの辛抱だ)
母親 (こちらの方が安全。表街道は、ヤクザな
   輩が出没するから、危険ですよ)
妻  (本当に!。裏は、登り下りが有るけれど)
妻妹 (私も、裏街道の方が好きです)
座長妹(私も、こちらの方が良い。だって、この 
   古道はとても静かで心が洗われます。
   それに、こちらに居られる、左右の楠木
   さんに、会って話をするのが、とても、
   楽しみなんです)

古道楠木兄弟は、彼等の会話を聴き、互いの顔を見合わせて、さも満足といった表情をした。
座長の妹は、兄弟の表情を見て、彼等に話し掛けた。

妹 (楠さん。ご無沙汰してます。お元気そう!)
兄 (お陰さまで。貴方も元気でしたか?)
妹 (有難うございます。私の年齢で、こう言う 
  のも、可笑しいかもしれません。けれども
  、生きてる事が少しも楽しくありません。
  生きてる意味が分かりません。前回、同じ
  悩みをしました。改めてお聞きしたい)  

古道楠木の兄は、少女の質問を受けて、次の様に返答する。

⚪貴女は、素晴らしい。先ず、そのことに自信を持ちなさい。何故ならば、今、(生きてる意味が分からない)と、言った。貴女は、(生きてる意味が分からない)と、云うことが、分っているからだ。⚪

少女は、古道楠木兄の禅問答の様な答を受けて
、心の奥、深い処に導かれ、返す言葉を探している様である・・・・・・・・・・・・・○

私は、ロッキングチェアーに座りながら、彼等の間で交わされる言葉を、しっかりと聞き逃すまいと、五感を研ぎ澄ましている。然し、存在の彼方からも垂らされる大事で重い言葉は、五感からは捉えられない事を私は知らないのだ。




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