Nicotto Town


藤宮ひなののんびりブログw


【短編】雨の中で……。

私は振られた、しかも2回も。

『君は優秀だ…君ならどこでもやっていけるだろう」

優秀なら…ここにいてはいけないんですか…?

「お前…俺じゃ釣り合いとれねぇよ…もっといい男探せよ…」

つり合いがなきゃ…好きになっちゃいけないの?

その場では、なぜか涙が出てこなかった。
不服を申し立てることも、泣いて縋りつくことも。
心が急に空っぽになってしまったからだろう。

夜、私は町を当てもなく歩く。
人込みの騒音も、電車の音も、耳には入ってこない。
それでも雨音だけは、心の奥底に染みてくる。

今なら泣けるかもしれない…‥。

「っ…ぅっ…くっ……」


みんなが私は悪くないという。
なら、何が間違っていたのだろう…。
どうすればよかったのだろう……。

歩き続けて、私は、橋の上にいた。
別に死にたいわけではなかったが、欄干に手をかけ、下をのぞき込むと、視界が揺らいだ。

その時…。

「危ないっ…」
「!」

急に後ろから抱えられ、驚いたまま私は後ろに倒れこんだ。

「危ないですよっ!のぞき込んだりしたらっ……って、藤宮先輩?」
「あ…足立君…」

私を欄干から引きはがしたのは、会社の後輩である足立君だった。
彼は私が教育係を務めた後輩で、私の業務の補佐を任せていた。

「先輩、心配したんですよ?出先から戻ってみたら、先輩が会社を辞めるって噂になってて…どうしちゃったんですか」
「ぁ…それは…」

私は彼に理由を話すことをためらってしまった。
解雇には違いないが、自分に原因があるかもしれない中、『解雇された』という会社に責任があるかのような言い回しは、はばかられたのだ。
とはいえ、両親も他界し、独り身の私には、突然会社を辞める、もっともらしい理由などなかった。

どうしよう…。

いつまでも、無言でいるわけにもいかないと、必死に思考を働かせるも、何も出てこない。
不意に必死に理由を考えている自分が情けなく思えてきた。

まだ…かっこつけようとしてるんだ…私…。

理由はどうあれ、会社にも恋人にも捨てられたということに変わりはない。
それが理不尽だと感じている感情が確かに自分の中にはあるのに、まだ、物分かりのいい人間でいようとする自分がいたのだ。

「もう…バカみたい…っ…」
「先輩?な、泣いてるんですか?」
「うん…ごめん…止まらない…かも…うっ…」
「先輩…」

迷惑をかけないように、いい人でるように、そう務めてきた。
人に役に立てる人間でいたかったから。
それなのに今の自分は、後輩の前で堂々と説明することもできない。
それが…とても情けなかった。

そんな時、彼が私の目をまっすぐ見ていった。

「先輩…事情はよくわかんないですけど…先輩が今、辛くって苦しいってことは、俺でもわかります…。そういう時は、思いっきり泣いていいんですよ…。俺…そばにいますから…」
「あっ…っ……」

彼の言葉は、この雨のように、静かに私の心に染みていった。
雨の中、私は彼の隣で、いつまでも泣き続けた……。




END



あとがき

こんばんは、今回は失恋(?)ネタです。
こんな後輩…欲しいな…。




もちろん全部妄想です!
こんな経験は全くありません笑


感想など伝言板記事にいただけたら、泣いて喜びます。





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