Nicotto Town



癒えるのは

「やっと先輩いなくなるんですね。」

 先生すらいなくなった図書室で満足したように呟く一人の生徒。
 にやりと口元をゆがめ、さも嬉しそうに笑う少年は、頬杖をつきながら小説に目を落とす黒髪の少女に話しかけた。
「先輩、四月からこの図書室も平和になりますよ。」
 ぎぎぎとわざとらしく音を立てながら椅子をひき、少女の向かいに座る。
「美緒先輩、早くいなくなってくださいよ。僕、美緒先輩がいる図書室なんて空気が悪くて……」
 ニコニコと微笑みながら言葉を投げかける。しかし、少女は決して少年の方を見ようとしない。
 とうとう痺れを切らした少年は、少女の本を取り上げ、笑顔で言った。
「人の話は、目を見ましょうね。先輩。」
「あんたが勝手に話しかけてくるだけだから。」
 とりあえず本返して。少女は、気だるそうな視線を向けながら、少年が右手に持つ本を指差す。
「は? 嫌です。」
 カーテンが静かに揺れる。
 少女はため息を吐くと大きな音を立てて席を立った。
「私がそんなに嫌なら近づかないで。図書室の空気が悪い? 換気すれば? それが嫌なら図書室来なければいいんじゃん?」
 静かに、でも冷ややかに少年を見つめる。
 少女の瞳には、不安気に揺れる少年が映っていた。
「私、帰る。もうあんたに会わないから。」
 少女は隣の机に置かれてあった淡い水色の鞄を引っ掴むと、一度だけ少年の方を向き、図書室から去っていった。
 残ったのは、呆然と少女の出て行った方を見る少年と、一冊の本だけだった。
「……あーあ、嫌われちゃったか。」
 ため息とともに零れた自嘲。
 ふわり。風が吹いた気がした。






















あとがき
 初めてにこっとさんで突発的に書いた小説です。
 まったくの素人なので、誤字・脱字などあると思いますが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
 続きは近々書こうと思います。

 では、失礼致しました。




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