【前編】死神と天使
- カテゴリ:自作小説
- 2017/01/21 11:29:21
僕は死神…人間の魂を導くのが仕事…。
でも…僕は…。
世界は4つに分かれている。
悪魔や刑罰を与えられた亡者の落ちる地獄。
死ぬ前の様々な存在が暮らす、現世
僕たち死神の住む、境界。
天使や神の暮らす天界。
4つの世界は層のように重なり、世界を形作っていた。
「とうとう来てしまった…」
僕は今、天界にある泉を訪れていた。
天界には仕事で何度か来ているが、今回は仕事というわけではない。
僕は絵を描くことが好きで、何度もも訪れるたびにここの景色を見て、1度でいいからここの景色を書いてみたかったのだ。
僕は泉の傍の森の中に降りると、身をひそめるようにして、絵を描き始めた。
本当なら近くで描きたい、でも僕にはその勇気がなかった。
なぜなら…。
「誰かいらっしゃるのですか?」
「!」
「!」
突然の声に僕は驚いて、物音を立ててしまった。
声の主はそれに気づいて、申し訳なさそうにいう。
「驚かせてしまい…申し訳ありません…あの…お姿を見せてはいただけませんか?」
「……」
このまま隠れたいたら、相手が森に入ってくるかもしれない、そう思った僕は思い切って森から出た。
「!」
「あの…貴方は…?」
僕の目の前にいたのは美しい天使だった。
「ご、ごめんなさいっ…すぐに立ち去りますからっ…」
「あ、ま、待ってくださいっ…」
慌ててその場を立ち去ろうと、浮遊したその瞬間、彼女の手が僕に触れようとした。
「!」
いけないっ…。
死神は悪魔ほどではないものの魔力を持っている。
天界の清浄な空気は、魔力を持つ者には少し辛い。
だから自分たちは、自らの魔力で自分の周りに薄く結界を張り、自らの身を守っているのだか、その結界は彼女に怪我を負わせる恐れがあったのだ。
だから僕は慌てて結界を解いた。
「うっ…」
「!」
彼女につかまれた手首に軽い痛みが走る。
僕が下に降りると彼女は、申し訳なさそうに涙を浮かべた。
「も、申し訳ありません…怪我をさせてしまって…」
「い、いえ…貴女に怪我がなくてよかった」
「えっ…?」
僕が自分の怪我を自分で治していると、彼女は驚いたように僕を見ていた。
「私のことを心配してくださったのですか…?」
「!ぼ、僕は…誰かが傷つくところはみたくないんだ…」
「お優しい方なんですね…」
彼女に綺麗な瞳に見つめられて、僕は慌ててうつむいてしまった。
すると彼女は、僕の隣に座り込み、自分のことを話し始めた。
彼女はこの泉の管理を任された、天使で、天使の位の中では、下の方だということ。
いつか立派な大天使になるべく、懸命に働いているということ。
「君は…立派だね…」
「そ、そうでしょうか…なんだか恥ずかしいです…」
彼女は恥ずかしそうにうつむいていたが、喜んでいるようだった。
今度は、僕が自分のことを話した。
僕は死神の中でも落ちこぼれだった。
死神は、死期が近づいた人間のもとに出向き、速やかに魂を回収し、循環させることが使命だ。
でも僕は、残された遺族の思いを考えてしまい…魂の回収がとても遅いのだ。
上はそんな僕に不適格の烙印を押したものの、仕事を与えないわけにもいかず、天界との書類のやり取りを任せたのだ。
「仕事なのは…わかってる…残された人の顔を見るのが…すごく…辛いんだ…」
だから…少しでも長く…最後の時間を一緒に過ごさせてあげたい…。
「貴方は…お優しいのですね…」
「え…ぼ、僕は…優しくなんか…」
「悲しい顔を見るのが辛いのは…貴方が悲しみを知っているから…悲しみを理解できるからです…だから貴方はお優しい…」
「!」
彼女は僕の顔に触れようとして、先ほどのことを思い出したのか、慌てて手を下げると、代わりに僕に微笑みかけてくれた。
その笑顔がとってもきれいで…あたたかくて…。
「あ、ありが…」
僕が彼女にお礼を言おうとしたとき…。
「お?死神と天使たぁ…面白れぇ組み合わせだな…」
「!」
「!!」
空から、声が聞こえてきた。
続く
あとがき
3000字で収まらず、急きょ、前編後編となりました;;
後編…大丈夫かな;;
感想やリクエストなど伝言板記事にいただけたら、泣いて喜びます。