【短編】浴衣でお祭り
- カテゴリ:自作小説
- 2017/08/19 00:57:42
「おーい、ひな、そろそろ準備できたか~?」
「あ、昴先輩、ご、ごめんなさいっ、もう少し待ってくださいっ」
夕方、夏祭りに向かうため、彼女の家に迎えに行くと、アパートの一室から慌てた様子の彼女の声が聞こえてきた。
「大学じゃないんだから、先輩じゃないだろー、開けるぞ?いいか?」
「は、はい」
了承を経て部屋を開けると、いつものようにジーンズにTシャツ姿で床に座っている彼女の姿があった。
彼女は生まれつき全身に麻痺があり、幼いころの両親の懸命な努力の末、家の中を四つ這いの体制で移動したり、条件さえ揃えれば、簡単な調理や、シャワー浴、着替えなどは1人でこなせるようになった。
外出時は車いすが必要で、俺はいつものように迎えに来たのだ。
「お、準備できたな…って…それ…着ないのか?」
「え、えっと…」
彼女の横には、以前買い物に出た際、「可愛いっ!」といってとても喜んでいた浴衣があった。
一度着てみようともがいたのか、脱いだばかりのような状態で、放置されている。
「何とか着てみようと思ったんですけどうまくいかなくて…先輩を待たせるのも申し訳ないので…」
「待った。」
「え?」
このままだと、またいつものように彼女がへこみそうなので、いったん落ち着かせるべく、言葉を遮った。
「ひなは、祭りにこれ、着ていきたいんだよな?」
「は、はい」
「だったら…着るぞ、ほら」
「え、は、はい」
俺は彼女がベットの上で着ていた服を脱いでいる間に、浴衣と帯を拾い上げ、頭の中で手順を確認する。
実はこういう時のために、前もって浴衣の着るときの手順を確認しておいたのだが、それは彼女には言えない。
彼女がうまくいかないといっていたのは、座ったままの脱ぎ着では、どうしてもぴしっとならなかったかららしい。
幸いにも帯は簡単につけられるタイプだったため、簡単に着せることができた。
「よし、これでいいな。じゃ、行くか」
「はい!」
祭り会場は、予想通りの混雑で、人にぶつからないように気をつける一方、彼女の方は、ずらりと並んだ出店の数々に目を奪われていた。
「あ、先輩っ!見てくださいっ…あの綿あめふわふわ~。あ、かき氷もあるっ」
「わかったわかった…夕食も兼ねてるんだから、デザートだけじゃなくて主食も食べろよ?」
「はーい、なんか先輩、お母さんみたい」
「せめて父親といってくれ」
「あははっ、若ーい!」
「たくっ…」
食べたいものを見繕いながら通りを進み、目的のベンチまでたどり着いた。
俺は彼女を車いすから抱き上げ、ベンチの上に座らせる。
彼女が背もたれにしっかり寄り掛かったのを確認して自分も彼女の横に腰を下した。
そして車いすの座面をテーブル代わりに軽い夕食を終わらせたタイミングで、花火がはじまった。
「わー、綺麗ー!」
「人込みで見えるか心配だったけど、余裕だったな」
「先輩っ!ありがとうございますっ!」
「ひな…っ…」
「!」
嬉しそうに俺を見る彼女に、俺はそっと口づける。
「せ、せんぱい?」
「2人っきりの時は…先輩じゃない…だろ?」
「す、昴…さん…」
「うん…」
浴衣姿で恥じらう彼女の顔は、とても魅力的で思わず理性が飛んでしまいそうになる。
「ひな…愛してる…」
「んっ…」
夏祭りの夜、花火の光に照らされながら、俺は彼女にいつまでもキスをしていた。
END
あとがき
お久しぶりです。
久しぶりの投稿です。
やばいです文章力の低下が著しいです><
落ちに無理やり感があるのは許してください><