「いますぐここに流れ星」
- カテゴリ: 自作小説
- 2024/02/16 21:49:02
祈るという行為の残酷さに、大人になってから漸く私は気付いた。 一人で来る夜の海は昼とはうって変わって黒く禍々しく、ここが何度も訪れた優しい思い出の場所とは到底思えない。対岸には人口の明りがまばらに涙のように小さく煌めいた。 昔、私の大切な人は度々ここに足を運んだ。真夜中、一緒に流星群を見に来たこと...
日日是悪日
祈るという行為の残酷さに、大人になってから漸く私は気付いた。 一人で来る夜の海は昼とはうって変わって黒く禍々しく、ここが何度も訪れた優しい思い出の場所とは到底思えない。対岸には人口の明りがまばらに涙のように小さく煌めいた。 昔、私の大切な人は度々ここに足を運んだ。真夜中、一緒に流星群を見に来たこと...
「蒼志郎様、肖像画が届きました」 丁寧なノックを重ね慇懃に入室した執事の荻原(おぎはら)が、待ちに待った贈り物の到着を報告した。「そうか。では飾る前に此処に」 それに対していつも通りの指示を出す。「承知いたしました」と恭しく頭を下げて荻原が退室してややもせず、清潔な白い布にくるまれた肖像画が自室に運...
空はつながっているよ、とは言うけれど。
律哉がもっとピアノを学ぶべくヨーロッパへ留学してから三ヶ月が経った。季節が一つ、くるりと変わるほどの時間だ。たとえ異国の地でも、少しは新しい空気に慣れただろうか。実は私は、律哉のいない日々にまだ順応できていない。
「海外に行く」 三ヶ月前、壁が薄く防音が...
今日うち上がったのは、スナメリだった。
帰り道の途中で一緒になった実咲ちゃんと里那ちゃんが、砂浜に下りて白い巨体を囲む。
通学路の途中にある海には、よく海洋生物がうち上がる。くらげ、いるか、くじら、他にもいろいろ。
しょうがないので私も浜辺に下りたが、棒きれを拾って息も絶え絶えのス...
もうそろそろでしょうか。 朝藤が、開け放たれた窓の向こうを見遣りながら尋ねる。視線の先、裏庭では青々とした梢が薫風に揺れている。今日も今日とて気持ちの良い日和だ。 朝藤は珍しく、他の患者なら忌む窓際のベッドを希望した。窓際で寝食をしようものなら、嫌でも眼下に広がる林が目に付くが、入院した者は大抵こ...