Nicotto Town



出奔の事

「お館様が出奔なされたじゃと?」

齢80をとうに過ぎ滅多な事では驚かない曹洞宗林泉寺住持、天室光育は太い眉を開き
大きな眼を瞠った。

冬の間、深い雪に閉ざされるこの越後にようやく春が訪れた頃から時折、その様な
事を口にしてはいたが、くさぐさの事の煩わしさから出た戯言だと思っていた。

今は夏の盛...

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夢の後の島 (後編)

一応、丁寧に色を塗って行きょったら何か疲れて来たんでウチは筆を止めて
目の前の島の方をぼんやり眺めた。

ずっと昔、平安時代だか何だか関東で平将門とかいう人が乱を起こしたのと
同じ頃、藤原純友いう人もこの瀬戸内海で乱を起こした。

ほんであの島に篭って今目の前に見える北の浜辺りで200艘以上の船に乗...

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夢の後の島 (前編)

昨日の夜はあんましよう寝れんかったので、朝起きるんが面倒で九時過ぎになって
やっと起きた。

母はとっくに仕事に出とった。

ウチはまだ小学生最後の夏休みが半分くらい残っとる。

窓の外は真夏の太陽がガンガンに照り付けとって、セミがでっかい声で鳴きようる。

洗面所に行って歯を磨いて顔を洗うてから、...

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月光 (2)

                  (2)

真夏の陽射しは午前中から雑多な建造物がひしめく都会に激しく降り注ぎ
周辺の木々からは蝉の鳴き声が騒がしく聞こえた。

郵便配達のバイクが僕が住んでいるマンションの入り口の前に停まった時、僕は
たまたまその20メートル手前をマンションに向かって歩いていた。...

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月光  (1)

昭和58年の小学4年の時の夏休み、8月初めの日中うだるような暑さが少しだけ
薄らいで来た午後4時を過ぎた頃、その電話は何の前触れもなく、突然架かってきた。

祖母は買い物に出掛けていて、祖父は奥の部屋で休んでいたので、僕が暑気の篭った
廊下にある電話に出た。

「はい長谷倉ですが」

「あの・・・長...

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