Nicotto Town


COME HOME


日日是悪日

「クラシックに恋をする」

すごいすごいすごい!
まるでたくさんの楽器から溢れだす音色たちが、絡み合って一つになって、そうしてこの空間を自由に飛び交ってるみたい!
見学として訪れた高校の管弦楽部の演奏に、私は一瞬で虜になった。
曲目はあの有名な「ファランドール アルルの女」
情熱的で、でも切なくて。ヴァイオリンの音が体育館に凛...

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「しあわせのくじら」

辺りはすっかり夕暮れ。目を見張るほどの美しい紅色のグラデーションだ。
私と息子が下る坂道には、掌同士をを結んだ長さの違う黒い影が映っている。
前に進むたびに隣の影の頭がひょこひょこ揺らいで、何とも心が和む。
純一が痛がらない程度に手を握り直せば、嬉しそうに顔を緩め、繋いだ腕を前後に大きく揺らした。
...

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「約束の海」

「海が見たいな」

ぽつり。誰に言うでもなく、ひとり言のように詩菜(うたな)は呟いた。

「海だったら、見えるじゃない」

リンゴの皮をむいていた手を休め、詩菜の方へと顔を向ける。
真っ白で清潔な、病院独特の匂いが染み込んだシーツの上に広がる詩菜の茶色い髪が、よく映えた。

「うん、そうだけどさ。違...

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「電話」

夜。
窓の向こうに、まあるい満月を見つけた。
黒い画用紙に、コンパスで正確な円を書き、そこを綺麗にくりぬいたような。
それくらいの、ち密な美しさだった。
どうしてもこの感動を伝えたくて分かち合いたくて、棚の上にあった電話を持ち出し、
膝の上に載せて窓の隣に座った。

慣れた手つきで、番号を押す。
月...

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「シルエットに導かれ」

恋に落ちてしまった。決して実らない恋だとは分かってる。
私も子供じゃないの。それくらいは、理解しなくちゃ。
窓の向こうに目をやり、慕う人を思い出す。
嗚呼もう約束の時間だわ。
木の陰に消えた黒いシルエット。
私はそれに引き寄せられて、走り出すの。
靴も履かずに玄関を飛び出す。
人の形のシルエットを追...

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