Nicotto Town


ストーリーテーラーの集まる小さなカフェ

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投稿者:ケニー

骨が落ちていた。

結構小さくて、6cmくらいで、太さは1cmくらいだ。
不思議に思って、おれはそれを拾う。
少し粉っぽい部分もあるが、ほとんどは触るとやたらとつるつるとしていて、とても白くてぴかぴかで硬く若い緊張感のような雰囲気をまとっていた。

何かの生き物の骨だろうか?

きっと、これはまだ子供の生き物の骨に違いないとおれは思った。
ここは田舎だから、まあ、近くの森とかにアライグマとかオポッサムなんかが住んでいて、それの死骸の一部だろうか。

日曜日で空は晴れている。

森の中の一本道を歩いている。
広大な森の真ん中にすっきりとした一本道があって、そこを歩いているのだ。
道の左右は森なのだが、それほど鬱蒼とした森ではなく、向こうの方まで見えるくらいの "木々のスペースがちょうど良い" 森であった。
とても広い雑木林と言っても良いだろう。

当然、この辺りにはアライグマやリスなどの小動物は多いはずだ。

おれはズボンのポケットにその骨らしきものを入れて、また歩き出す。
なぜか、自然とポケットに入れたのだ。


行き先は、Jor Manson Contemporary Art Museum。
街から離れた森の奥にひっそりと佇むミュージアムで、ずっと前から行きたかったところだ。
今やってる展覧会は、Fredrick Boamanというオーストリアの現代アーティストの個展だ。

Fredrick Boamanの最も有名な「Aktuelle Kriminalität」(原罪)という作品も展示されている。
幾千本ものピアノ線を天井から床に張り詰めて、その床にはわずかな振動を起こす簡単な仕掛けが施される。
その振動によって、その幾千本ものピアノ線がなんとも言えない荘厳で奇妙な音を出すのだ。
インスタレーション作品の一種と言えるのだが、しかし、そのスケールがすごい。
かなり広いスペースの天井も床も全て工事しないと出来ない作品なのだ。
おれも彼の作品を生で見るのも初めてで、楽しみにしていた。



ところが、さっきバス停でバスを降りた時には晴れていた空が、急に太陽が黒く覆われて、雨が降り出してきた。
美術館まではまだ歩いて10分くらいはあるだろう。
おれは小走りで先を急いだが、雨は急速に強くなっていってる。
これではずぶ濡れになってしまうと、一旦、どこかで雨宿りしようと決めた。
しかし、この辺りには、店は無く、あたりは木しかない。
一つ、大きめな木を見つけて、慌ててその下に入る。
そこだと、ほとんど雨は当たらずに、うまいこと雨宿りが出来そうだった。

しかし、この雨が降り止まなかったら、どうしようか?と、携帯を開けてみたが、ツイてない。圏外だ。
この先進国のアメリカでも、圏外になることがあるのか、とうんざりしていると、頭上でチュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえた。
見上げると、どうやら巣があるようで、小鳥たちが鳴いている。
親鳥はどうしたのだろうか?と少しいらぬ心配をしていたら、さっと親鳥が雨の中を戻ってきた。
この雨で小鳥たちが心配になったのだろうか。

はぁ、と一つ、ため息をついて、おれは少し途方に暮れていた。



ねえ。



ビクッとして、振り返ると、そこに華奢な男の子が立っていた。
地元の子なのか、金髪で目が大きくて青い。
たぶん、6、7歳といったところか。





骨、拾ったよね?




びっくりして、おれは彼を見て、え?なに?と聞き返した。



骨だよ。拾ったよね?



それでようやく、さっき道端で拾った白い骨のことを言ってるのだとわかった。

ああ、あれ、うん、さっき拾ったよ。
君のものかい?

と聞くと、男の子は、

見せてよ。

と言った。
おれはポケットからさっきの骨を出して、手のひらに乗せて男の子に差し出して見せた。

やっぱり、これ、僕の骨だ。

ああ、君のペットとか?

いや、違うよ。僕の骨なんだ。

そう言って、男の子はそのつるつるした骨をおれの手のひらからサッと取ると、自分の胸ポケットに入れた。
そして、男の子は何も言わずにすぐに森の奥に歩いて行った。
このどしゃぶりの雨の中を。



それだけの話だし、その後、どうなったかよく覚えてない。
その木の下でおれはどれくらい雨宿りをしたのか、そして、美術館に行って展覧会を観たのか、白く濃厚な霧がかかったように、その後のことを何も思い出せないのだ。



僕の骨なんだ。



男の子のその声だけがやけに耳に残っている。




管理人
ケニー
副管理人
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参加
受付中
(今すぐ参加可能)
公開
全公開
カフェの利用
朝10時~夜24時
カテゴリ
自作小説
メンバー数
11人/最大100人
設立日
2024年02月18日

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